書評

利休と秀吉と二代にわたる天下人に仕えた茶人の白熱した生の軌跡

文: 橋本麻里 (ライター・エディター、永青文庫副館長)

『天下人の茶』(伊東 潤 著)

『天下人の茶』(伊東 潤 著)

 天正十四年(一五八六)、秀吉は宮中の小御所に黄金の茶室を運び込み、正親町天皇に茶を献じた。吉田神社の神主・吉田兼見は、日記『兼見卿記』にその時の様子を「御茶湯は悉く黄金、御座敷は勿論なり、その見事さ筆舌に尽くし難く目を驚かす」と記す。あるいは天井から明り障子の骨まですべて金で包まれていたこと、茶室は組み立て式になっていたこと、茶道具もすべて黄金づくりであったことなどを、当時の大名や豪商、宣教師たちは事細かに書き記した。

 その記述を元に、堀口捨己(監修)、稲垣栄三(考証)、早川正夫(技術協力)らが協働して昭和六十三年(一九八八)に再現したのが、MOA美術館の黄金の茶室(金箔は二〇一三年に、漆芸家で人間国宝の室瀬和美の監修によって、全面的に再施工された)である。現代美術であれば、ジェームズ・タレルの向こうを張って「光の茶室」とでも名づけたいその空間の孕む力に、利休は戦慄と歓喜を感じたに違いない。取材で入らせていただいた時の感想は、そこに尽きる。

天下人の茶伊東 潤

定価:本体670円+税発売日:2018年12月04日


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