特集

「言葉」を受け継ぐ、「神秘」を受け継ぐ

文: 山本 芳久

『キリスト教講義』(若松英輔 山本芳久)

 誰も「神秘」をゼロから作り出すことはできません。そもそも、人間によって作り出されたようなものであれば、「神秘」とは呼べません。キリストの受肉と死と復活という人知を超えた「神秘」を中核とするキリスト教は、その出来事を経験した人々の「言葉」を「受け継ぎつつ受け渡していく」という「言葉」の動的な伝達を、不可欠な要素として有しているのです。
「受け継ぎつつ受け渡していく」という営みは、単なるオウム返しではありません。異なる時代や文化のなかで同じメッセージを受け継いでいくためには、状況に応じて、メッセージの語り方を工夫し、創造的に変容させていく必要があるからです。
 今回のわたしたちの試みは、そうした意味におけるキリスト教の創造的な変容の一つです。今回の試みですべてを語り尽くすことができたとは全く考えていません。読者の皆さまからの叱咤激励を受けたうえで、再び若松さんとともにキリスト教を語りなおす新たな機会が訪れることを強く願っています。


 本書が誕生したのは、ひとえに、担当編集者の鳥嶋七実さんの御尽力によります。鳥嶋さんは、拙著『トマス・アクィナス 理性と神秘』(岩波新書)の刊行記念として開催された若松さんとの対談イベントに来てくださり、若松さんと私のやりとりに強い関心を持って今回の対談本を発案して文字起こしもしてくださいました。彼女の卓抜な企画力と構成力を抜きにしては、『キリスト教講義』が生まれてくることはありませんでした。井上洋治神父のもとでの若松さんとの出会いから始まり、今回の書籍の刊行にまで至る出会いの連鎖の「神秘」にあらためて思いを馳せながら、本書が読者の皆さまにとって、「神秘」を語る「言葉」との新たな出会いのきっかけとなることを願いつつ、擱筆したいと思います。

山本芳久(やまもと・よしひさ)
東京大学大学院総合文化研究科准教授。1973年生まれ。東京大学大学院人文社会研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は哲学・倫理学(西洋中世哲学・イスラーム哲学)、キリスト教哲学。『トマス・アクィナス 理性と神秘』(岩波新書)でサントリー学芸賞受賞。著書に『トマス・アクィナス 肯定の哲学』(慶應義塾大学出版会)、『トマス・アクィナスにおける人格の存在論』(知泉書館)がある。



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キリスト教講義若松英輔 山本芳久

定価:本体1,850円+税発売日:2018年12月15日