12月15日に発売された『キリスト教講義』(若松英輔 山本芳久)に掲載されているブックリスト50冊の中から、本書ととりわけ関連が深く、また、読み解きの入り口となる10冊をご紹介します。若松英輔・選、山本芳久・選からそれぞれ5点ずつのご紹介です。
若松英輔・選
『生きがいについて』(みすず書房、2004年)神谷美恵子
キリスト教入門として、この本を挙げることに奇異の感を抱くかもしれない。だが、ある意味では無教会の伝統に、もっとも豊かに開花した宗教的著作の一つだといってよい。神谷は幼いころから新渡戸と親しくし、内村の高弟だった金澤常雄は叔父で、師と仰いだ三谷隆正、書籍を通じて影響を受けた藤井武も、内村門下だった。神谷は、キリスト教を出発点とし、その枠を創造的に越えていった。
『沈黙』(新潮文庫、1981年)遠藤周作
日本にキリスト教文学と呼べるものがあるとすれば、この作品を無視して語ることはできない。島原の乱以後の長崎を舞台にして描かれたキリシタンと棄教をめぐる物語だ。しかし、この作品は、厳密な意味での史実を語った歴史小説ではない。むしろ、歴史的世界を背景に、信仰はどこにあるのかを探った現代小説として読んだ方がよいように思われる。強いられた棄教を経てもなお深化するという信仰の秘義を描き出した問題作。
『新版 小林秀雄 越知保夫全作品』(慶應義塾大学出版会、2016年)越知保夫
作者の名前を知る人は少ないかもしれないが、日本キリスト教文学における批評の基点と呼ぶべき作品群を残した人物。生前は、著作を刊行することなく逝ったが、没後に編まれた著作は、島尾敏雄、遠藤周作、井上洋治といった人物の心を揺さぶった。代表作は「小林秀雄論」と日本における愛の源泉を論じた「好色と花」。没後50年を経て、静かに読み継がれていることが、彼の文学の潜在可能性を物語っている。
『須賀敦子全集』第7巻、第8巻(河出文庫、2007年)須賀敦子
彼女がカトリックであることは生前、あまり広く知られていなかった。しかし、事実は熾烈な、といってよい信仰を生きていた。ここに挙げた二巻は、そうした彼女の軌跡がありありと感じられる記録。ヨーロッパに移り住む以前に書いたエッセイ、コルシア書店の一員になったあと、日本の友人たちに送った冊子「どんぐりのたわごと」もここで読める。これらを読んで『コルシア書店の仲間たち』に立ち戻ると、彼女の言葉はいっそう立体的になってくる。
『暗い時代の人々』(阿部斎訳・ちくま文庫、2005年)ハンナ・アレント
本書には、第二ヴァティカン公会議を開いた教皇ヨハネ23世の端的な評伝が収められている。それまで閉ざされがちだった門を広く開こうとした人物の生涯を、冷静に、しかし熱のある言葉で語っている。アレントはユダヤ人だが、キリスト教と緊密な関係をもって生きた。代表作『活動的生』(英語版『人間の条件』)にも、彼女のキリスト教経験の痕跡を見ることができる。キリスト教の真の脅威は、マルクス主義よりもパスカルとキルケゴールといった内的な告発者であるという視座は注目してよい。
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