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【冒頭立ち読み】『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)#1

【冒頭立ち読み】『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)#1

古市 憲寿

平成最後の日と令和最初の日の2回にわけて『平成くん、さようなら』の冒頭をお届けします。


ジャンル : #小説

『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)

 1989年1月8日生まれの彼は、今年で29歳になった。彼が社会から注目され始めたのは、今から7年前のことである。22歳の時に書いた大学の卒業論文が指導教官と編集者の目に留まり、単行本として出版されたのだ。博士論文や修士論文が出版されることはままあるが、学部生の書いた卒業論文が日の目を見ることは珍しい。そんなことになったのは、もちろんその年が2011年だったからだ。

 3月11日に起こった震災により、彼が通っていた大学では卒業式が中止され、代わりに指導教官が個人的な卒業パーティーを開いてくれたという。そのパーティーで祝辞を述べるため、指導教官は学生たちの卒業論文を読み直した。文芸評論の仕事で忙しい人物が通常であればそうした労を執ることはないはずなのだが、大学として卒業式を挙行できなかったという後ろめたさもあったのだろう。あるいは連載を持っていた媒体が一時的な休刊となり、ただ時間に余裕ができたというだけなのかも知れない。とにかく指導教官は、彼の卒業論文が震災後の時流と非常に適合していることに気が付いた。

 論文は、当時話題になっていた原子力発電所で働く若者たちに丹念な聞き取り調査を行い、原発の功罪を描き出したものだった。教授は初読の時、文章力は高いものの、地味なテーマだとしか思わなかったらしい。

単行本
平成くん、さようなら
古市憲寿

定価:1,540円(税込)発売日:2018年11月09日

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