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【冒頭立ち読み】『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)#1

【冒頭立ち読み】『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)#1

古市 憲寿

平成最後の日と令和最初の日の2回にわけて『平成くん、さようなら』の冒頭をお届けします。


ジャンル : #小説

『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)

 彼との取り決めで、アダルトグッズに関する請求は全て彼に行くことになっている。私も彼もお金に困ることはない立場にあるが、それは私たちの妥協であり、結束の象徴でもあった。私たちのセックスに責任を持つのは私たちであるべきだ。その責任を果たせないならば、何らかの代償行為をする必要がある。その理解は私たち共通のものであることを形にしたのが、私から彼へのセックストイに関する請求だ。

 つまり、セックストイを選ぶという行為は、私の生活にとって、それなりに重要な意味を持つ。だから、彼がどんな顔をして、どんな覚悟を持って安楽死で死にたいと言ったのか、全く思い出すことができない。ただ彼によれば、私はまるで朝食のメニューを尋ねられた時のように「いいんじゃない」と応えたという。今から思えば、普段から彼の提案に異議を唱えることが少なかったため、反射的に同意の言葉を口にしてしまったのだろう。

単行本
平成くん、さようなら
古市憲寿

定価:1,540円(税込)発売日:2018年11月09日

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