物語の背景となったデパート業界の銀座戦争について、思い起こしてみたい。その前史といえるのが小説では「丸越前社長の不祥事」として出てくる一九八二年に起きた三越をめぐる事件である。長年にわたって三越に君臨した社長が女帝と呼ばれた愛人に利益供与をしたとして特別背任罪に問われ、老舗デパートの信用は一気に下落、その商権を奪おうとデパート間の競争が激化したのだ。その後、一九八四年四月にはダイエーグループのプランタン銀座、同年一〇月には有楽町マリオンに西武有楽町店と有楽町阪急が同時オープン、銀座戦争の様相を呈するようになった。
小説のなかで、津川の直属の上司である外商部の大野部長がデパート業界の過当競争を嘆く場面がある。
「いったい銀座はどうなっちゃうのかねえ。わずか半年の間に三つもデパートが増えるなんて異常ですよ。それも一キロ四方に八店がひしめくことになるんだから、たまったものじゃない」
半年間に三つのデパートというのは前述の新規三店で、銀座に八店がひしめくというのは、この三店のほか、銀座三越、松屋銀座、松坂屋銀座店、有楽町そごう、数寄屋橋阪急だろう。津川の働く老舗デパートからすれば、「たまったものじゃない」事態だった。
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