いまの銀座界隈を歩けば、有楽町そごうはビックカメラ有楽町店に、有楽町マリオンの西武百貨店はJR東日本系のルミネ、有楽町阪急は男性向けの阪急メンズ東京に変わった。数寄屋橋阪急は東急プラザ銀座に、松坂屋銀座店は「GINZA SIX」に、それぞれ衣替えしている。銀座三越と松屋銀座は健在だが、三越の経営母体は、デパート業界の再編の嵐のなかで、伊勢丹を吸収合併。三越や松屋は生き残りの勝者だが、その売り上げを支えているのは、「爆買い」の中国人観光客だといわれている。
一九八〇年代以降の小売業界の歴史を概観すれば、この業界が構造的変化ともいえる地殻変動に襲われていることがわかる。激しい変化に対応する経営戦略がなければ、生き残ることは難しい。小説の中でも、新しいデパートがオープンするのは、銀座を「若者の街にイメージチェンジするチャンス」だという店長の考えが出てくる。消費に対する新しい考え方を持つ若者層を引き込む戦略は生き残りに不可欠だ。また、大口顧客の離反を割引率の拡大でつなぎとめようとした津川は、「仕入れコストの合理化努力」で、実質的な利益の目減りを防ぐ手立てを模索する。流通経費の合理化も必須の戦略だ。
しかし、新しい潮流にどう対応するか、懸命に考え、行動しようとする人たちがいる一方で、構造変化が見抜けず、戦略もなく「突撃」の号令を出すだけの人たちもいる。小説の中では、店次長の牧村が典型だ。津川たちに売り上げ目標だけを提示し、「落ち込みを挽回できなかったら、それこそ選手交代してもらわな示しがつかんからな」と、恫喝する。牧村は、東大出を鼻にかける東大病の人間だと、部下から嫌われている。
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