教科書を暗記する能力はあるのかもしれないが、教科書にない変化には対応できない人物は、どこの企業にも役所にもいる。綿密な取材で知られる作者のことだから、牧村のモデルとなった人たちがいるのだろう。自分の出身大学や現在の役職をひけらかすことしかできない「である」人間にかぎって、変化に対応しようと行動を起こす「する」人間の足を引っ張っている。読者の多くは、自分の周りにいる「牧村」を思い浮かべながら、主人公の身を案じ、そして自分の会社の身を案じているのではないか。
「窮すれば通ず」という言葉がある。「行き詰まって困りきると、かえって活路が見出される」(広辞苑)という意味だが、原典の「易経」には、「窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通じ、通ずれば則ち久し」とある。困窮が活路に通じるには、「変通」という媒介項が必要なのに、私たちは、いつのまにか「変ずれば」を飛ばして、窮しても何とかなる、神風が吹く、と思い込んでいる。
「変通」なき「窮すれば通ず」主義は、太平洋戦争では敗戦を招き、デパート戦争では消費構造の変化を見落としたデパートを脱落させ、そして、世界を激変させている現在の情報技術(IT)を軸にした情報革命では、活路を見いだせない多くの日本企業を苦しめている。
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