とはいえ、この時期から一九九〇年にかけては、自動車やエレクトロニクスなどで日本製品が世界市場を席巻した時期でもある。今から思えば日本経済の絶頂期であり、バブル景気を謳歌した時代でもあった。デパート業界全体の売り上げも一九八五年に八兆円だったのがピークの一九九一年には一二兆円まで拡大している。銀座デパート戦争は、短期的にはデパート業界の売り上げの増加を誘発したことになる。小説の中でも、有楽町の二店の開店で集まった買い物客があふれ出るように銀座の老舗百貨店にも流れた様子が描かれ、競争の激化を嘆いていた大野部長も「これはきみ、新しい潮流ですよ」と、はしゃぐことになる。
デパート業界の本当の地獄が始まったのは、一九九〇年代に入ってからだ。バブルの崩壊に伴って、デパートが得意としていた豪華品が売れなくなる一方、個性的なファッションを好む若者たちはデザイナーズブランドを求め、デパートよりもブティックに足を向けるようになった。小売業界でデパートに代わって主導権を握ったのは大手スーパーで、都市部の郊外に大型店を次々に展開し、大都市のデパートに向かう客の流れを都市郊外へと逆流させた。
そして、デパート業界に地獄を味わわせた大手スーパーも二〇〇〇年代に入ると、コンビニの拡大に勢いをそがれ、売り上げは鈍化した。最近は、コンビニも飽和状態となる一方、ネット通販サービスのアマゾン、楽天市場、ZOZOTOWNなどが登場し、小売業界の主役の座は、めまぐるしく交代するようになった。
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