- 2019.03.09
- 書評
何が現実か? 価値観を揺さぶられ霧の中を彷徨うような酩酊感を味わう
文:末國善己 (文芸評論家)
『死仮面』(折原 一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「シリアルキラー展」が開催された二〇一六年に単行本が出た本書『死仮面』は、作中にシリアルキラーが作製したアート作品、犯罪関係の資料をコレクションしている富豪が登場する。これは偶然の一致だろうが、不思議な縁を感じてしまった。
秋月雅代の夫・十津根麻里夫が、突然倒れた。脈を診るため左手を持ち上げた雅代は、初めて夫が義手をしていたことを知る。そのまま麻里夫は四〇代前半の若さで死亡、医者によると死因はスキルス性の胃癌で、相当の苦痛を我慢していたらしい。
雅代は老舗和菓子屋の息子・玉名英樹と結婚したが、英樹のドメスティック・バイオレンスが原因で離婚、その後も英樹のストーカー行為に悩まされていた。カルチャーセンターの生け花教室に通っていた雅代は、待ち伏せしていた英樹に首を絞められたところを、同じカルチャーセンターの小説教室で学ぶ麻里夫に助けられた。それを機に二人の仲は親密になるが、週末だけ雅代のマンションで過ごす内縁関係だった。
雅代は、葬儀を出すため麻里夫の身分証明書を探すが免許証も保険証もなく、栃木県小山市にある高校の非常勤講師の名刺が出てきただけだった。しかも当の高校に電話をしたところ、十津根麻里夫なる教師は現在も過去も在籍していないといわれる。
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