小説の下書きらしき手書きの文章が書かれた麻里夫のノートを見つけた雅代は、麻里夫が誰かを調べる手掛かりになればと考え、パソコンに打ち込む作業を進める。そこに書いてあった内容こそ、死体を発見した「僕」の物語だったのである。
雅代が読む小説の中では、いじめグループにいた坪井が失踪し、「僕」が町の名士でマリオネットの仮面を着け慈善活動をしている厚林壮太郎が犯人ではないかと疑っていた。著者のミステリには実際に起きた事件をモチーフにした作品も多く、神戸連続児童殺傷事件をモデルにした『失踪者』(文藝春秋、一九九八年一一月)、東電OL殺人事件をモデルにした『追悼者』(文藝春秋、二〇一〇年一一月)などの〈○○者〉シリーズは特に顕著である。本書に出てくる少年連続失踪事件も、一九七〇年代末から九〇年にかけて発生した北関東連続幼女殺人事件に擬せられている。ただ被害者が少年であることから、アメリカのシリアルキラー、ジョン・ゲイシーの事件との共通点も指摘される(壮太郎が仮面を着けているのも、ピエロに扮したゲイシーを想起させる)など、実際の事件の取り込み方が複雑になっており、これが物語の先を読みにくくするブラインドの役目も果たしているのである。
麻里夫の小説では、坪井を誘拐した疑惑がある壮太郎を調べるため、「僕」が夏休みの研究課題のインタビューと偽り、豪壮な洋館に乗り込んでいた。そこには犯罪者が描いたアートなど妖しいコレクションがあり、「僕」はそれに魅了されてしまう。