- 2019.03.09
- 書評
何が現実か? 価値観を揺さぶられ霧の中を彷徨うような酩酊感を味わう
文:末國善己 (文芸評論家)
『死仮面』(折原 一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ここから雅代は、麻里夫は何者かを探るのだが、生け花教室で友人になった山崎君枝から、人に尋ねる時に麻里夫の顔を見せるためにも瓜二つの仮面を作ることを勧められる。君枝の知り合いだという人形師の三田村清吾は、麻里夫のデスマスクをベースに精巧な仮面を作り始め、これがタイトルの由来となっている。三田村は、「トツネマリオ」が「マリオネット」のアナグラムと指摘。現実とも幻想ともつかない「マリオネット」のビジョンは、物語を牽引する重要な鍵になっていく。
雅代のエピソードと並行して、K市の進学塾に通う中学三年生「僕」の一夏の冒険が描かれていく。「僕」は、夏期講習の実力テストの結果が才色兼備の同級生・菅野真利子より上だったことに気をよくしていたが、帰り道でいじめっ子の竹原圭介、取り巻きの坪井光宙、佐々木拓磨に追われ、戦国時代の城跡に逃げ込む。夏草に覆われた一角に身を隠した「僕」は、腐臭を放つ少年の死体を発見。折しも「僕」の暮らす町とその周辺では少年の連続失踪事件が起きていた。家に帰った「僕」は、死体を発見したことを母親に伝え警察が捜査を始めるが、なぜか死体は消えていた。
この冒頭部は、岡山の美術店から腐乱した女の死体が発見され、警察に捕まった店主が女の依頼で二つのデスマスクを作ったと証言するところや、女が東京で男を殺し別の名前を名乗っていたところなど、横溝正史の同名のミステリ「死仮面」(「物語」一九四九年五月号~一二月号)へのオマージュのように思えた。
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