話の途中で言葉を挟む。
「あー、いや、違うんです。で、うちの若いのをドライバーとして使うことになったんですが、なにせ、技術があまりに未熟で。なもんで、うちの会社の敷地内で運転指導してもらい、当日、補助員として付き添ってほしいんですよ」
「だから、免許はもう――」
「私有地は関係ないでしょ?」
「そうだが……。しかし、指導員ならおまえがすればいいだろう」
「いや、指導といえば、やっぱり奥村さんかな、と。僕も、自分の失態で中央交通の運転手は辞めることになりましたが、その後もこうして運転手をやれているのは、奥村さんにしっかり指導してもらったからです。そのことを社長に話したら、ぜひにということになりまして」
園田は言うと、突然、立ち上がった。
「奥村さん! 受ける受けないはともかく、一度、社長に会って話をしていただけないでしょうか。お願いします!」
深々と頭を下げる。
「おい、園田……」
「お願いします! 社長に適任者がいると言ってしまったんです! 来てくれなかったら、僕の信用がなくなります。やっと見つけた仕事を失いたくないんです。お願いします! お願いします!」
園田は何度も何度も頭を下げた。
奥村に、園田の申し出を請ける義理はない。が、“やっと見つけた仕事を失いたくない”という言葉が、胸の奥にちくりと刺さった。
園田の免職は自業自得だ。が、一方で、園田の愚行を知りながら止められなかったことに忸怩たる思いもあった。
「……わかった。話だけは聞こう」
「ありがとうございます! じゃあ、これからお願いします!」
園田は言うと、小屋を出た。
奥村は仕方なく席を立った。
森は園田をずっと見張り、尾行してきた。
昨晩は動きを見せなかった園田は、翌日の昼前に自家用車で家を出た。
森がバイクで後を追うと、園田はアミュプラザおおいたの第一駐車場へ入っていき、車を降りた。
森もバイクを停め、後を追った。
屋上庭園へ来た園田は、脇目も振らず、クラインガルテンの奥の小屋に入り、誰かを待っていた。
森はホテル前広場で遊ぶ家族の陰に隠れ、園田の入った小屋を監視した。
十五分ほどして、男がやってきた。中年男性だ。森は胸ポケットに入れたスマホを出し、画面を確認するふりをしつつ、録画を始めた。
誰かはわからない。が、園田と接触する者をできる限り逃がさず画像に収めておくことが重要だ。
園田は立ち上がって、頭を下げたりしている。その様子から、上下関係が見て取れる。
話は聞こえないが、園田と男性の動きから見て、園田が何かを頼んでいるようにも見える。
十分ほど話していた園田と男性が席を立った。駐車場の方へ向かう。
森はスマホをポケットに入れ、二人を追った。
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