別冊文藝春秋

『刑事学校 Ⅱ』矢月秀作――立ち読み

文: 矢月 秀作

電子版24号

「別冊文藝春秋 電子版24号」(文藝春秋 編)

前回までのあらすじ

 畑中圭介は大分県警刑事研修所、通称・刑事学校の教官として六人の研修生を指導している。研修生・姫野は黒木淳史を黒木の姉・珠美のアパートで確保することに成功し取り調べていた。黒木を殺害しようとして失敗した利光大樹のグループのうち、秦昌平ら三人は何者かに捕えられ、利光と沙也は追われていた。交通事故により大分中央交通バスを解雇された奥村耕史は、元同僚の園田孝介から「実入りのいい仕事」を紹介するという誘いを受けた。


第5章

1

 奥村は、園田に呼び出され、大分駅に隣接したアミュプラザおおいたの屋上庭園に来ていた。

 四千五百平米もある広大な広場で、園内にはミニ電車が走っていたり、滑り台やブランコなどもある。また、鉄道神社やせんとくんの籔内佐斗司教授が制作した七福神が飾られているお堂、軽食が摂れるカフェもあり、家族やカップルが集う憩いの場となっている。

 奥村は人目を避けるように歩き、ホテル入口近くにあるクラインガルテンという小さな農園の方へ来た。

 ここでは、有料で野菜作り体験ができるが、設置された小屋は休憩場ともなっている。

 最奥の小屋に、園田がいた。

 園田は奥村を認めると、立ち上がって一礼した。

 奥村は小屋に近づいた。

「わざわざ、こんなところまですみません。どうぞ」

 テーブルを挟んだ向かいの席を手で示す。

 奥村は腰かけ、園田を見た。

 印象が変わっていた。

 バスの運転手をしていた頃は、髪も短く整え、服装もこざっぱりとしたもので、好青年の風情をまとっていた。

 が、今、目の前にいる園田は無精ひげを生やし、髪もぼさぼさで汚いタオルを頭に巻いている。服装も小汚いジーパンによれた長袖Tシャツとジャケット。頬もこけてやつれ、目の下のクマもひどく、清潔感溢れる青年とは程遠い風体だった。

「このたびは、災難でしたね」

 園田は同情を口にした。

「まあ、仕方ないよ。おまえは今、何をしてるんだ?」

「映像制作会社のロケバスのドライバーをしているんです。僕にできるのは、運転だけですから」

「そうか。まあ、仕事に就いているならよかった。で、短期の仕事というのは?」

 奥村はすぐに用件を切り出した。

「今度、臼杵の方でロケをすることになったんですが、どうしてもロケバスが二台必要で、もう一人のドライバーが見つからなかったんですよ」

「待ってくれ。私はもう免許を取り消された。無免で運転はできない」

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版24号文藝春秋・編

発売日:2019年02月20日


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