前回までのあらすじ
雑誌記者だった「わたし」が喜和子さんと知り合ったのは十五年ほど前のことだった。彼女は上野図書館に並々ならぬ愛着を抱いていて、図書館そのものを主人公にした小説を書いてよ、と「わたし」に持ちかけてきた……。こうして「わたし」と喜和子さんの友情は始まった。一時疎遠になるが、久しぶりに会ったとき、喜和子さんは老人ホームに入っていた。友情が復活したのもつかの間、喜和子さんは肺炎で亡くなってしまった。「わたし」は喜和子さんの半生をたどるうち、瓜生平吉なる人物から喜和子さんに宛てられた葉書を渡される。そこに書かれたなぞなぞを解くと、「いつか、図書館で会おう」というメッセージが現れて……。
なぞなぞの意味が解けたので、こんどは『歩兵第二二八聯隊史』にとりかかろうとしたが、古尾野先生のところへ寄り道していて図書館に行った時間が遅くなったので、書名だけメモして家に戻った。
そして喜和子さんの「上野の古本屋」に書名を伝えて、見つけておいてくれるように頼んだら、数日も経ずに連絡が入った。
「よそだと二万から三万で出ていますよ」
古本屋の親父は相変わらず恩着せがましく言った。
「特別に四千円でお出ししますからね」
遠くもないのだから出かけて行けばいいのだが、締め切り仕事を抱えていると出るのも億劫で、郵送を頼んだ。手元に届いたその本はきれいな箱に入っていて、赤い表紙も新品のように美しかった。ほとんど読まれていないものと思い込んでページを繰っていると、唐突に書き込みがあり、文章に波線が引かれていたり、人物名が書き出してあったりした。こうした本は、聯隊にいた人物か、もしくはその遺族に渡るのがせいぜいなところだろうが、それだけに自分自身、あるいはその係累と関連する人物や事件は、舐めるように読むものなのだろう。第三八師団の一部として、第二二八聯隊が愛知県及び岐阜県下で編成されたのは、昭和十四年のことだ。この年に二十歳以上だった人で、存命の人物はまずいないと思われる。
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