特集

澤田瞳子さんが選ぶ10冊【猫小説傑作選】

文: 澤田 瞳子

表紙にもいろんな表情の猫がたくさん

猫をこよなく愛する作家が出会ったかけがえのない猫と飼い主たちとの物語。

長野まゆみ『耳猫風信社』

長野まゆみ『耳猫風信社』

 宮沢賢治の『猫の事務所』、井上ひさし『百年戦争』など、多くの作家が描いた〈猫の世界〉は、猫好きであれば誰しも、わずかな怖れと多大な好奇心を抱かずにはいられない世界だ。しかしながら本作において、十一歳になった「ぼく」が眼にした不可思議な隣町の不可思議さは、それら既存の「猫の世界」とは一線を画する。

 子どもから大人へと移り変わる瞬間のきらめきにも似た、少年たちの時間。その貴重なひと時に主人公が訪れた隣町は、筆者の文庫版あとがきの言葉を借りれば、まさに「よその生き物」のもの。誰もが生涯で一瞬だけ訪れることが許される場所は、まさに作中に登場する黒猫の青と黄金の睛そっくりに美しく、そして言い知れぬ切なさと甘やかさに満ちた場所なのである。

 

 思いつくまま猫本をお勧めしてきたが、さて困った。芥川龍之介の「お富の貞操」を始めとする古典的名作、あまんきみこの「山ねこおことわり」や安房直子の「猫の結婚式」などの童話もご紹介したかったのに、もはや紙幅が尽きた。

 とはいえ実のところを言えば、世の中に猫を愛する人がいる限り、猫を巡る物語はこれからも更に書かれるに違いない。

 書を読むや躍るや猫の春一日――は『吾輩は猫である』に登場する俳句。春爛漫の当節、さて我々は明日、どんな猫と書物に出会えるのか。猫と本を巡る旅は、まだまだ続くのである。

猫は仕事人高橋由太

定価:本体610円+税発売日:2014年11月07日


 こちらもおすすめ
特集猫と本を巡る旅──オールタイム猫小説傑作選(2019.02.22)
特集猫を愛した文士たち(2019.02.22)
インタビューほか家を買って猫を飼ったら、もう結婚できない!?   小手鞠るいインタビュー『瞳のなかの幸福』(2019.02.15)
インタビューほか奇想の画人の知られざる半生(2015.05.20)
書評奇想の絵師の生涯を描く(2015.06.01)
書評人の心の美しさを現代に問う小説世界(2016.07.13)