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澤田瞳子さんが選ぶ10冊【猫小説傑作選】

文: 澤田 瞳子

表紙にもいろんな表情の猫がたくさん

猫をこよなく愛する作家が出会ったかけがえのない猫と飼い主たちとの物語。

高橋由太『猫は仕事人』

高橋由太『猫は仕事人』

 本作の主猫公である三毛猫・まるは、化け猫でありながら、元同心・佐々木平四郎の飼い猫となっている変わり者。かつて妖怪・ぬらりひょんの手下として、人の恨みを晴らす仕事人(仕事猫?)として働いていたが、現在はその過去を捨てて飼い猫暮らしを楽しんでいるという魅力的な設定だ。

 だが本作で眼を惹くのは、主役が化け猫という、斬新な設定ばかりではない。この世の苦しい現実に挑むまるたちの姿には、まさに本家・仕事人顔負けの暗い魅力が潜んでいるではないか。

 なお筆者の高橋由太にはこの他、黒猫の猫又・サジが営む妖怪飛脚屋を主な舞台とする「大江戸もののけ横町末記」シリーズや黒猫そっくりの小雷獣クロスケを主猫公とする「もののけ犯科帳」シリーズなど、猫好きには見落とすことの出来ない作品が数多くある。

宇江佐真理『深川にゃんにゃん横丁』

宇江佐真理『深川にゃんにゃん横丁』

 江戸深川、猫の通り道であることから、にゃんにゃん横丁の異名を持つ小路。その裏長屋に暮らす人々と横丁を闊歩する猫たちが、この連作の主人公だ。

 やもめ暮らしの男から、生き別れた娘の名をつけられる白猫「るり」。るりの母でもあり、恩人の元に鯵の開きや富籤など、せっせと恩返しの品を運ぶ「まだら」。その他多くの猫を見守る人間の中でも、徳兵衛・富蔵・おふよの幼なじみ五十代三人組は、すでに老年に差し掛かった諦念と、人生で磨かれた知恵を兼ね備えた人物として設定されている。

 猫のいる時間には常に、静かさと温もり、そしてほんのわずかな哀しみが漂っている。それはおそらく、人間よりもはるかに短い命を生きる猫たちの、静謐で柔らかな営みゆえ。翻って本作の中心人物たる徳兵衛たちを眺めれば、ささやかな日常を懸命に生きる彼らは、にゃんにゃん横丁の猫たちとどこか似た気配をまとっているではないか。

 猫の活躍を期待する読者には、本作は少々物足りないところがあろう。だがこの作中には、猫に寄り添い、彼らと生きる穏やかな時間とその哀歓が満ちている。

 大人になり、子を生し、やがて老い、死んで行く命。それは実に人も猫も変わることのない、永久不滅の命の営みなのである。

猫は仕事人高橋由太

定価:本体610円+税発売日:2014年11月07日


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