インタビューほか

<村山由佳インタビュー> 祭と性愛、六つの禁断の物語

「オール讀物」編集部

祭を舞台にした珠玉の性愛短編集『まつらひ』

『まつらひ』(村山由佳 著)

 恋愛小説の書き手として知られる著者が、日本古来の祭をテーマに、というのは、少々意外な感じを受けるが?

「福岡の柳川(やながわ)へ、北原白秋(きたはらはくしゅう)の命日に行われる“白秋祭”を見に行こうということになった時、同行の編集者から『祭を短編集のテーマにしては?』とヒントをもらったのがきっかけです。なるほど、古来から祭の日にだけ許されることがある。これは性愛的な縛りとも関連が深いので、面白いモチーフになりえるのではと思い、そこから生まれたのが『柔らかな迷路』でした」

 タイトルの『まつらひ』とは、非日常と日常を指す“ハレとケ”の概念を見いだした民俗学者の柳田國男(やなぎたくにお)が、「祭」の語源として提唱した「まつらふ」(祀〈まつ〉る)から連想した造語だ。

 この短編集では、他に野沢温泉の“道祖神祭(どうそじんまつ)り”、相馬(そうま)の“野馬追(やまおい)”などを舞台に、非日常の強い磁場に突き動かされる男女の様子を、官能的に炙(あぶ)り出した。執筆に際しては各地の祭を取材したが、なかでも特に思い出深いのが、岩手の“蘇民祭(そみんさい)”だという。

「氷点下の真冬に褌(ふんどし)ひとつで冷水をかぶっては走るという祭で、見ているだけで死ぬほど寒かった。女人禁制なので、当時の担当者がかわりに褌姿で参加してくれたんです(笑)。参加者はよく転ぶんですが、彼によるとそれは寒さで足の感覚がなくなるからだそうで。この命がけの取材は、『約束の神』という短編に生かされました」

 ただ、祭を小説の舞台として昇華させるのは思うより簡単ではなかった。

「祭の紹介だけでは小説にならないので、主人公は参加する側なのか見る側なのか、また、その祭を選ぶ必然性など、短編ごとの読み味に変化をつけるのに苦労しましたね。たとえば一編目の『夜明け前』は、長野県御代田町(みよたまち)の龍神(りゅうじん)まつり。夏ごとに艶夢(えんむ)を見る女性の視点から、幼なじみの夫やその兄との関係性を描いた物語ですが、祭の伝承が持つ神話的な世界観を、レタス農家の嫁、三角関係といった現代性のある物語に、うまく重ね合わせられたのではないかと自負しています」

 そして、現代にあえて伝統的な祭を題材にすることで、執筆を通して見えてきたものがあったという。

「現在は、攻撃性や支配性といった男性性のネガティヴな側面ばかりが多く話題になりますが、祭は、男性性のポジティヴな面が、臆面もなく解放される限られた空間。神のもとで、動物の“オス”としての原始的な感覚を呼び覚まし、それを見る人々がまた興奮と魅力を覚える。この小説でも、そんなプリミティヴな感覚が、読む方の中に再現されればうれしいですね」


むらやまゆか 一九六四年東京都生まれ。二〇〇三年『星々の舟』で直木賞を受賞。〇九年『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞を受賞。

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