私は「流言」を苦し紛れに長編の冒頭に利用しようと考え、『いねむり磐音江戸日誌 炎熱御番ノ辻』の第一章に持ってきたのだろう。
改めて『居眠り磐音 江戸双紙 陽炎ノ辻』を読み直してこの作品が長編シリーズ化した理由を私なりに考えた。
一つは主人公坂崎磐音と許婚の奈緒との別離だろう。奈緒のことを深く想う磐音の気持ちが次作に繋がったのではないか。
もう一点は老中田沼意次との確執が物語を長編へと展開させたのではないか。本作『陽炎ノ辻』では新進の幕閣の一人として政(まつりごと)を真摯に考えていた田沼意次が段々と権力の魅力に取り憑かれるという私の勝手な解釈でシリーズの悪役に据えたことが五十一巻の長大な物語になったと思う。
久しぶりに本シリーズを通読した作者は、
「結構面白いではないか、私がこんな小説を書いたのか」
と恥ずかしながら感動している。
「はい、面白いです」
この文春文庫『居眠り磐音』決定版に合わせ、二〇一九年五月十七日には松坂桃李君が坂崎磐音役で映画『居眠り磐音』が公開される。
文庫決定版刊行と映画製作がもう一度このシリーズに新たな息吹を与えてくれればと原作者は切に願う。
ともあれ『居眠り磐音』決定版は見直し刊行が始まったばかりだ。長いシリーズ同様に再び長期戦となる。
決定版完結と作者の老化進行との争いになりそうだ。ともかく体調に留意して決定版刊行終結を目指す覚悟です。
佐伯泰英
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。