書評

足が物語るイタリア

文: 平松洋子 (エッセイスト)

『ロベルトからの手紙』(内田洋子 著)

『ロベルトからの手紙』(内田洋子 著)

 随筆だろうか。

 小説だろうか。

『ロベルトからの手紙』を読むとき、一瞬、脳裏をかすめる。もちろん、随筆にフィクショナルな要素がふくまれていることは大いにあるのだから、語られるものを枠組みに閉じ込めるのはさほどの意味をなさない――と重々承知していても、やはり気になってしまうのはなぜだろう。

 この一文がある。

「どれも私自身が見聞きした実話です。すべて、〈足〉〈靴〉〈足元〉〈歩み〉をテーマにまとめました」(「あとがきに代えて」)

 その「実話」の意味について考えたくなるのは、本書に収められた十三篇の魅力、あるいは著者が紡ぎだす言葉の世界を繙(ひもと)く手立てではないかと思われるからだ。そもそも随筆は見聞したものごとを語るだけのものではなく、小説は事実や実経験を排除するものでもなく、両者は領域を共有し合う一面がある。その重なり合いを十三篇それぞれがふくらませ、自在に押し広げるマジカルな手つきに誘いこまれる。

ロベルトからの手紙内田洋子

定価:本体640円+税発売日:2019年04月10日


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