- 2019.07.02
- 書評
アラフォーのねじれたヒロイン像が新鮮! 重めのドロドロ系小説の入門編
文:東村アキコ (漫画家)
『ペット・ショップ・ストーリー』(林真理子 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
表題作の『ペット・ショップ・ストーリー』に登場する店のオーナー中山圭子はどこの町にもひとりはいそうな噂好きの女性だ。彼女は町じゅうの小さなゴシップに精通している。テレビの話題にはならないけど、町の人にはじゅうぶんワイドショー的な値打ちのある「ゲスい」ネタである。離婚しているが暮らしに不自由はなく、見た目もきれいで若々しいという、圭子さんのキャラ設定が秀逸だ。
ある日、主人公の「私」がチャウチャウを連れて店先で立ち話をする「あの女」を見かけたことから、醜悪な過去が蘇ってくる。たしかにこれだけ因縁のあった女が同じ町に住むとなったら、ほとんど地獄だろう。細かい描写でいうと、主人公が飼っている、耳がしょっちゅうじくじくと湿っぽいマルチーズの存在が強烈だった。昔、親戚のおばちゃんが飼っていた犬もそうだったわと思い出して、胸がジャリジャリ、ジャボジャボしてくる。主人公も身勝手だが、とことん離婚に応じなかった「あの女」もそうとう性格が悪い。どちらもいけ好かない女だと私は思う。
自分に学がないせいだろうが、『初夜』を読んで初めて「老嬢」という言葉を知った。年老いたお嬢さんという言い方が残酷だ。箱入り娘で高値をつけて、ちょっとやそっとの家には嫁にやれんと強気できたのに、あるときクルンと反転する瞬間がやってくる。男の格はどんどん下がり、やがて見合い話も途切れて、あとは老嬢一直線だ。小じわの増えた娘の顔を見て、「どうして化粧をしないのだ」と父親が内心ジリジリするシーンがいい。娘が若いころなら「目立つ化粧はするな」と叱っただろうに、父親のそんな思いも反転してしまう。一度も男を知らないまま子宮を切除する娘を哀れんで、入院の前の晩、親子はひとつ部屋で寝る。このときに抱く父親の妄想は正直キモい。究極の父親の傲慢さを感じる。そんなことを考えるくらいなら、娘をもっと自由にしてやればよかったのだ。娘だって親の言いなりにならず、ディスコでも行って不埒な体験でもしていたら、あとの人生は変わっていたかもしれない。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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