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アラフォーのねじれたヒロイン像が新鮮! 重めのドロドロ系小説の入門編

アラフォーのねじれたヒロイン像が新鮮! 重めのドロドロ系小説の入門編

文:東村アキコ (漫画家)

『ペット・ショップ・ストーリー』(林真理子 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ペット・ショップ・ストーリー』(林真理子 著)

『眠れる美女』は十五歳年上の女性を妻にした男の風変わりな性癖を描いた、この短篇集でもとくに好きな作品である。この男性はべつにスーパー熟女マニア、というわけではないだろう。相手はアーティストであり、自宅もちゃんと持っていて、料理もうまい。そういう女子力の高さ、究極の人間力にひかれる男の気持ちはよくわかる。ハリを失って、柔らかく吸い込まれていくような肌の描写もエロチックで美しい。全体的にとてもきれいな作品だと思う。好きなものがあって、没頭できたら年齢なんてもう関係ない。自分の年齢は自分の心で決めればいいのだから。

 

『いもうと』を読んで、向田邦子先生の『眠り人形』という作品を思い出した。美人の姉にずっとコンプレックスを抱いていた妹。ふたりの結婚後、妹は嫁ぎ先の商売が繁盛して素敵なマダムになっていくのに、姉は昔の面影を失い、女性としての輝きまで逆転してしまう。女は選ぶ男によって見た目も変わるのかと、ショックを受けたのを覚えている。『いもうと』の知子だって昔はそこそこきれいだったはずだ。でも、気がつけば人生を滑り落ちて、ホームレスぎりぎりみたいな姿で兄の家にあらわれる。兄妹でも、ほんのちょっとしたことで人生は大きく分かれてしまう。池袋のうなぎ屋で兄妹が食事をするシーンは映画を見るようだ。高級店ではなく、天丼とかもやっていそうな大衆店。安っぽいパイプの椅子とテーブル。「妹ならこの程度の店でじゅうぶん」と安く値踏みしているのがわかる。一度人生を転がり落ちると、這い上がるのはむずかしい。彼女のためのウルトラCはどこにあるのだろう?

文春文庫
ペット・ショップ・ストーリー
林真理子

定価:726円(税込)発売日:2019年06月06日

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