- 2019.03.08
- インタビュー・対談
【対談】やっぱり「不倫」は文化だ! 女の不倫は欲のため、男の不倫は見栄のため
柴門ふみ ,林真理子
『下衆の極み』(林真理子 著)
ジャンル :
#随筆・エッセイ
(「週刊文春」二〇一六年五月五日・十二日号掲載の対談を再録しました)
林 今年に入ってから、ベッキーちゃん、宮崎謙介元議員、桂文枝さん、乙武洋匡君……と不倫がバレて、ものすごく批判されていますね。センテンス・スプリングが火をつけてしまった「不倫は許すまじ」という世の中の空気は何とかしてほしい。
柴門 私もいまの不倫叩きは、ちょっと違うと思っています。よくよく考えてみると、不倫で怒る権利があるのは、浮気された奥さんだけですよね。
林 そうですよ。不倫がバレて、記者会見で「世間をお騒がせして、すみません」ってよく言うけど、謝る必要なんて全然ない。みんな、スキャンダルを楽しんでいるだけだもん。
柴門 世間は害を被ったわけじゃないし、むしろ話題を提供してくれてありがとうという感じでしょう。ベッキーちゃんは、元気で天真爛漫なところが売りのタレントだったから、かわいそうだなと思って。
林 かわいそうですよ。いまベッキーちゃんみたいな若い女の子たちは、普通の恋愛ってそんなに楽しくないんじゃないかな。だけど、妻のある男の人とこっそりつき合うのはドラマチックでスリリング。ベッキーちゃんは、まだ彼と結ばれる日を夢見ているかもしれないよ。
柴門 ベッキーちゃんは「ゲスの極み乙女。」のファンだったんでしょ。
林 ファンでライブの打ち上げに行って口説かれたら好きになっちゃうよね。
柴門 しょうがないよ。打ち上げの夜ってアドレナリンが出て高揚してるし、最初は奥さんがいるって知らなかったみたいだし……。
乙武君もすごく糾弾されましたが、あれは男性の嫉妬も大きい。モテない男のひがみ。
林 本当だよね。私のまわりでも女の人はみんな「いいじゃん」って言ってる。
柴門 桂文枝さんの場合は、七十過ぎてもまだ愛人を持てることが、世の男性はうらやましいんですよ。
林 まあ、文枝さんには、もう少し相手を選んでほしいと言いたいですけど。
柴門 これまで芸人さんって、自分の浮気でもネタにして笑いをとるのが当たり前だったと思うんだけど、ここ数年で潮目が変わってきたような気がしてて。
林 私もそう思う。
柴門 とにかく明るい安村さんだって結構うろたえていたし、文枝さんほどの大御所でも、笑い飛ばすことができなかった。芸人さんでさえ笑いにできない風潮になってきてるのは、ちょっとどうなんでしょう。
林 ビートたけしさんはどうなの? 愛人と暮らしていると週刊誌でも書かれているけど、もう老人枠だからいいのかしら。
柴門 老人枠(笑)。いま何をやっても許されるのは、たけしさんぐらいじゃない? ダウンタウンの浜ちゃん(浜田雅功)だって、奥さん(小川菜摘)が怖いみたいで低姿勢だし。
私、お笑い芸人の不倫記者会見でものすごく印象に残っているのが、宮川大助・花子の花子さんが若手芸人と不倫したとき。
林 それ、私も覚えてる。
柴門 夫婦で記者会見して、大助が「おまえほんまにやったんか」って言って、「やったやった、アッハッハッ」って。見ていて、すごいなあと思ったんですよ。
林 そうだね。最近はなんでこんなに不倫に対して厳しくなってきたんだろう。
柴門 ネットだと思います。いまは何かあると、ネットであっという間に炎上しちゃう。ネットに叩かれて謝らなきゃいけない状況に追い込まれたり、過敏に反応するとまた叩かれたり。
林 ネットなんか無視すればいいのに。
柴門 林さんのように強い人ばかりではないですよ。
林 そうか、芸能人は人気商売だし、大変だよね。
柴門 あと、政治家も不倫はまずいわけでしょう。
林 政治家だって昔はすごかったよ。いまブームになっている田中角栄さんなんか、複数の愛人がいて、それぞれに子どもを産ませていたんですから。
柴門 公然と愛人を秘書にしていましたものね。
林 ハラケンの愛称で知られる原健三郎という政治家は、選挙のときに奥さんもお妾さんも土下座させて、「偉い!」と評判になって票が入ったって。
柴門 時代や生まれ育った環境もありますよ。私は生まれが徳島で、昔はまだ近所にお妾さんと呼ばれる人がいました。昭和の時代はまだお妾さんというものは、そんな悪いことじゃないみたいという下地がありましたね。
林 そうそう。日本はもともと浮気についておおらかだったでしょう。『源氏物語』が書かれた平安時代の頃は、正妻以外にも女性は何人も持てましたよね。
柴門 でも、一夫多妻が認められていても、六条御息所は嫉妬のあまり生霊になってしまいましたよね。そういう意味では現在の一夫一妻制は、とりあえず正妻が一番偉くて、残りは全部ルール違反という決まりで、すごくわかりやすい。
林 そうね。フェミニストの中には、明治に入ってから出来た戸籍制度が女性を縛っているんだって言う人もいるけど、婚姻制度がなかったら、男女はグチャグチャになっちゃう。
柴門 うん。そのひとつの典型が『美は乱調にあり』(瀬戸内寂聴原作)で描いた、大杉栄と三人の女だと思う。アナーキストの大杉栄は、男も女も経済的に自立して自由にセックスする「フリーラブ」という男女のありかたを提唱して、大杉栄と伊藤野枝、神近市子、妻の保子という一対三のフリーラブを始めるわけですよ。ところがうまくいくはずはなくて、大杉は経済的には神近に頼りきりになり、女性としては最初から伊藤野枝が大好きで、妻とはやむなく離婚できずにいただけ。四人の関係はあっという間に破たんして、大杉栄は神近市子に刺されちゃうわけです。平塚らいてうが「誰かを傷つけるようなこの恋愛がこの先うまくいくとはとても思いませんでした」と書いてますけどね。
林 そうだよね。大正の頃までは、軽井沢の別荘で首を吊った有島武郎と波多野秋子みたいに、不倫がもつれて心中に発展することもよくあったみたい。
柴門 いま不倫して死ぬ人はまずいませんよね。そうすると、やっぱり昔のほうが厳しかったのかな。
林 それは姦通罪があったから。北原白秋は不倫相手の夫から告訴されて投獄されたからね。人妻と不倫して相手の夫にバレたら、男は牢屋に入るか死ぬかの二つしか選択肢がなかった。
柴門 そうよね。戦前は命がけだったんですね。
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