したがって、無重量に特有の殺害トリック発見の公開かと期待する向きには、やや肩すかしのようである。NASA、航空宇宙工学世界への丹念な取材と、一級の理解力、咀嚼の力量を示しながら展開させる、波乱万丈の物語性こそが、作者の眼目の第一義と推察され、それ自体、エンターテインメント小説としては充分に立派な仕事ぶりであるが、未聞の構造設計を目指す「本格」の方向では、一級たるの条件とはならない。
また、物語がアメリカの航空宇宙工学の歴史に重なりはじめ、「スターウォーズ計画」の関与を宣言しはじめると、その大がかりな印象から、殺害の方法におおよその見当がついてくるきらいはある。
宇宙空間で敵ミサイルや衛星を破壊するための、天文学的開発予算を組んでの大規模破壊兵器、電磁パルスの発生と、それにともなう特有の発光、等々の事実を心得ていけば、確かにこういう最強軍事国家の最新兵器を一個人に向ければ、生身の生命体などひとたまりもないであろうし、行為の隠蔽も容易に思われて、着地点の驚きへの期待は漸次縮小する。人間の肉体など、国家規模の撃破意志の前では、カゴの中の小動物のように弱体であろう。
「本格」としての殺害ゲームは、個人レヴェルの小規模を前提とするから不可能興味が生じる。たとえば国軍一個大隊が全員で関与し、決行後にみなが口裏を合わせるなら、どんな不思議な殺人事件でも現出は可能になる。このような仕掛けでも傑作は書き得ると思うが、この場合も本格志向者の関心を引きたいなら、別ミッション遂行中のアクシデントゆえの一死者か、そうでないなら、ぎりぎりまで個人の行為と思わせる筆の手当が必要そうである。
こうしたことから当作は、出版に値する一級の労作であることには疑いを容れないが、本格ミステリーの記念碑的傑作群を目指す当賞においては、本賞には届かないかという判断になった。
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