インタビューほか

<冲方 丁インタビュー> 少年が江戸を守る新たな諜報劇

「オール讀物」編集部

『剣樹抄』

『剣樹抄』(冲方 丁 著)

「江戸を舞台に書いてほしいと依頼をいただいて最初に考えたのが、海外ドラマ『24-TWENTY FOUR-』のように、大きな災厄を未然に防ごうとする話でした。で、江戸の災厄といえば火事です。振袖火事とも呼ばれる“明暦の大火”の時期はいつか書きたいと思っていましたし、大火というカタストロフから生き延びた人々の“同時代感”を出したかったんです」

 幼い頃に父を旗本奴に殺された無宿の少年・六維了助(むいりょうすけ)は、明暦の大火で育ての親・三吉も亡くしてしまう。それ以来、一人で芥運びをしつつ我流で木剣の腕を磨いていたが、水戸光國からその腕を見出され「拾人衆(じゅうにんしゅう)」に誘われる。拾人衆とは、特別な能力を持つ捨て子を集めた幕府の隠密組織で、明暦の大火が幕府転覆を目論(もくろ)む者たちによる放火だったのではという疑惑を追っていた。

「水戸光國を書くのは『光圀伝』以来ですね。主人公の了助に何か強い動機が欲しかったのですが、光國とのある因縁を思いついて、この作品をスタートできるな、と思いました」

 了助は、みざるの巳助、いわざるの鳩、きかざるの亀一といった仲間とともに、江戸を守るため各所に潜入する。その子ども達を支えるのが、水戸光國を筆頭に、老中・阿部豊後守忠秋(あべぶんごのかみただあき)、先手組の徒頭(かちがしら)・中山勘解由(なかやまかげゆ)、東海寺の僧・罔両子(もうりょうし)といった個性的な面々だ。

「特殊な能力を持った子どもは何でもできてしまうので、管理者がいないと描きにくい。そこで、拾人衆を管理する大人として、実在した人物たちを出しました。こうやってリアリティーを担保することで、拾人衆というちょっと突飛(とっぴ)な存在を出しても許されるかな、と。そのぶん、子どもたちに関してはだいぶ遊んでいます」

 伝説的な遊女、初代横綱、のちに歌舞伎の題材となる町奴・幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)など、各話ごとの登場人物たちも豪華絢爛だ。無宿ゆえ、武士や市井(しせい)の価値観にとらわれない了助の素直な視点から、江戸の復興が生き生きと描かれる。

「この時期は、大火で焼けてしまったところから新しいものを築き上げなければならないという、マンパワーが文化を創った時代です。この人間の華やかさを出し惜しみせず描きました。毎回、史実を絡めるので書くのが本当に大変なのですが、手ごたえがあるので、ついやってしまうんです(笑)」

 無宿から庇護される存在となり、自由と孤独の間で揺れ動きつつ、少しずつ強くなっていく了助。謎めいた敵に、光國との因縁――その行く先を、ぜひ見守ってもらいたい。


うぶかたとう 一九七七年岐阜県生まれ。九六年『黒い季節』でデビュー。二〇〇九年に刊行した『天地明察』で吉川英治文学新人賞や本屋大賞、一二年『光圀伝』で山田風太郎賞受賞。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 8月号

2019年8月号 / 7月22日発売 / 定価980円(本体907円)
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剣樹抄冲方 丁

定価:本体1,500円+税発売日:2019年07月10日


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