書評

現代なら、ダメンズにつかまるタイプ

文: 小日向えり (タレント・エッセイスト)

『ゆけ、おりょう』(門井慶喜 著)

『ゆけ、おりょう』(門井慶喜 著)

 小説『ゆけ、おりょう』にも、この独特の「門井さんらしさ」を強く感じました。

 これまで読んできた「龍馬」関連本は、龍馬のことを「英雄」と持ち上げるか、「そんなに偉い人ではない」と叩くかのどちらかでしたが、『ゆけ、おりょう』では、龍馬を英雄視することもなく、ドラマチックに話を盛り上げたりもしない。妻のおりょうについても、小説のための脚色を避けて等身大の姿を描いていらっしゃるように感じました。

『ゆけ、おりょう』のおりょうは、口達者で大酒呑みで、海援隊の志士たちにも煙たがられています。龍馬の実家でも喧嘩して出て行かざるをえないし、陸奥宗光に助けてもらうために会いにいったのに、宗光を罵ってしまうシーンもリアルです。万人に好かれる人ではなくて、ちょっと癖のある人。この小説を読んで、読者が皆おりょうのファンになるかと言えば、そんなにはならないと思います(笑)。

 船というおもちゃを欲しがる龍馬もまるで子供のようで、私が持っていた龍馬のイメージ「末っ子らしい甘えん坊で、ほっとけない愛されキャラ」が、リアリティを持って膨らんで伝わってくるものでした。他の人がやったら嫌われるようなことでも許されてしまう、どこか抜けていて、愛嬌のある龍馬。面倒見のいいおりょうは、そんな弟みたいで放っておけない龍馬が愛おしくて仕方なかったことがよくわかります。私がいないとこの人はダメね! と思わせてくれる男に惚れてしまうという、現代なら「ダメンズに捕まるタイプ」ですね。

ゆけ、おりょう門井慶喜

定価:本体760円+税発売日:2019年08月06日


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