書評

令和初となる「終戦の日」に、小説『昭和天皇の声』を通じて歴史を振り返る。

文: 文藝春秋出版局

『昭和天皇の声』(中路啓太著)

日本にとって、日本人にとって天皇とはなにか?

 結果、事件は早期に収束したが、昭和天皇は後に、「自分は二・二六事件のときと終戦のときの2回だけは、立憲君主としての道を踏みまちがえた」と回想している。

 すなわち、天皇が国家の方針を、余人の輔弼を受けずにみずから決定することになったわけだが、そのような例は、田中義一内閣を総辞職に追い込んだことも含め、3度あったと考えられるだろう。
 今回の短篇集は、これらを振り返るものとなっている。
 
 短編『転向者の昭和二十年』は、戦前は武装共産党の指導者だった田中清玄を描いている。田中はいつしか天皇のことを「大和民族の中心としてなくてはならないお方だ」と考えるようになり、戦後は天皇主義者に転向、フィクサーとして生きた。
 田中の波乱万丈の人生を読めば、昭和という時代に生きた個人の内面においても、昭和天皇の声がいくつも立ちあらわれ、せめぎあってきたことが、圧倒的な迫力で伝わってくる。
 令和の時代を生きる私たちに、「日本にとって、あるいは日本人にとって天皇とはなにか?」というテーマを問いかける物語を、この夏、手に取ってほしい。


中路啓太さんは「月刊文藝春秋 九月号」で、「悠久ということ」というタイトルで、天皇と皇室についての随筆を寄稿しています。
 


 

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