令和の御代となって初めての「終戦の日」を迎える。
日本の敗色が濃厚となっており、さらにソ連軍の侵攻が伝えられた昭和20年8月――。鈴木貫太郎総理大臣らが出席し、御前会議が行われた。そこで昭和天皇は言葉を詰まらせながらこう言った。
「これでどうして戦争に勝つことができるか?(中略)今日は、忍びがたきを忍ばねばならぬときと思う」
この時の発言は、8月15日の玉音放送につながった。
あれから74年――。昭和天皇の生身の姿が描かれた短編集『昭和天皇の声』が刊行された。
気鋭の筆者による「昭和史小説」の決定版
著者は、第5回本屋が選ぶ時代小説大賞の受賞者・中路啓太さん。
中路さんはここ数年、多くの史・資料を駆使して、近現代史を描き続けている作家だ。『ロンドン狂瀾』で、1930年のロンドン海軍軍縮会議を、『ゴー・ホーム・クイックリー』で、憲法制定にまつわるGHQと日本の官僚の戦いを、『ミネルヴァとマルス 昭和の妖怪・岸信介』で、常に権力の中枢にいた稀代の政治家・岸信介を描いてきた。
今作の根底に流れているのは「国民たちが昭和天皇の思いを夢想し、その『思い』を大義名分としてぶつかり合うことで、昭和という激動の時代が作り上げられた面もあるのではないか」という著者の考えだ。
二・二六事件を描いた短編『総理の弔い』は、非常に興味深い。
青年将校たちは、天皇のために行動している、との信念のもと蹶起し、岡田啓介総理、鈴木貫太郎侍従長らを襲撃した。ある憲兵は、蹶起軍こそが、反逆者だと憤った。
陸軍の内部には、この行動を義挙とする動きもあるなかで、昭和天皇は、「陸軍が躊躇するならば、私がみずから近衛師団を率いて鎮圧にあたる」とまで言った。
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