「原郷の森」とウォーホル
落合 文學界で始まったばかりの横尾さんの連載「原郷の森」の初回、読ませていただきました。また、先日拝見した横尾さんの個展『B29と原郷――幼年期からウォーホールまで』(編集部註・本誌巻頭に一部掲載)と併せて読むと、「原郷」という造語にこめられた気持ちがよくわかりました。「原風景」と言ってしまうと意味が違ってしまうけれど、風景ではないところを指す言葉として「原郷」を使われたんだなと感じました。
横尾 原風景と言うと、郷里という土地と時間に結びついちゃいますよね。「原郷」は肉体的な郷里じゃなくて、魂というのかな、生まれる以前の時間と繋がった風景なんです。
落合 僕自身、前の個展のタイトルにも使用したのですが、ドイツ語のSehnsucht(憧憬、哀愁)という言葉で捉えられる感覚。言語化しがたい根源的な感覚がイメージされて、気に入っています。対話形式なのもわかりやすくて、このように彫刻的に書いていくのだなと。最初は自分の観点で書き始めて、ちょっとだけ視点をずらして、今度はこちらから切っていく。そうやって面を取っている感じがありました。一つ気になったのは、個展の中に「ギルガメッシュとMP」という絵も展示されてましたけど、なぜギルガメッシュなんですか?
横尾 ある日、夢を見たんです。僕が砂漠の真ん中に立っていると、天空から「ギルガメッシュ」という音声が聴こえたんです。夢はそこで終わった。ギルガメッシュを調べたら、メソポタミアのウルク街の王様の名前だった。
落合 昔、ルーブル美術館でギルガメッシュの石像を観た記憶があります。横尾さんの作品を観て、日本風の風景の中にギルガメッシュが入っていくところが非常に面白かったです。それから、「突発性難聴になった日」という作品があって、色がなくなった風景が描かれていましたよね。人工内耳の知り合いがいて、人工内耳をオフにしたら世界から色が消えると言っていて、突発性難聴もそれと同じような感覚なのかなと思いました。そして、隣の部屋に移動すると、海岸沿いに女性が何人かいて、結婚式みたいな様子になっている作品がありましたよね。
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