さらに“想像”によって人間を理解し、事件の真実に迫ろうとする仲田蛍(天祢作品らしい、ユニークなキャラクターである)によっても、硬直化した認識が何度も揺さぶられる。真壁の内面が描かれるのに対して、蛍の内面は外に表れた言動から判断するしかない。でも、彼女の信念は伝わってくる。事件を追う過程で変化していく真壁が魅力的なら、一貫した態度で捜査を続ける蛍も魅力的。このコンビの活動も、本書の読みどころといっていい。
そして終盤、ストーリーは読者の予想を超えた展開を迎える。ピタリピタリと伏線が嵌り、衝撃の真相が明らかになる。もちろんそれにより、テーマも際立つ。優れたミステリーは、事件のトリックや真相が、テーマと密着しているものだ。本書はそれを、極めて高いレベルで実現している。何度でもいうが、凄いことである。
現在の日本の状況を考えると、さらに貧困層は拡大していくのではなかろうか。だとすれば必然的に、子供の貧困問題も、より深刻になるはずだ。本書のタイトルのように、希望はすでに死んだのか。絶望しかないのか。そんなことはない。なぜなら作者が、絶望の先にある何かを信じ、それを読者に託しているからだ。あえて書かなかったラストのセリフに、天祢涼の願いが込められている。厳しく、そして素晴らしい作品だ。
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