書評

面白い作家が、すごい作家になる瞬間がある。

文: 細谷正充 (文芸評論家)

『希望が死んだ夜に』(天祢 涼 著)

『希望が死んだ夜に』(天祢 涼 著)

 面白い作家が、凄い作家になる瞬間がある。天祢涼の場合は、本書『希望が死んだ夜に』だ。これを読んだとき、凄い作家になったと、感嘆したものだ。

 たしかに天祢作品は、最初から面白かった。二〇一〇年に第四十三回メフィスト賞を受賞したデビュー作『キョウカンカク』は、共感覚の持ち主である美少女探偵・音宮美夜を主人公にした快作である。評判もよく、シリーズ化された。また、国会議員(その後、都知事)の漆原翔太郎を探偵役にした「セシューズ・ハイ」シリーズもある。その他、ヒロインの空想によってさまざまな名探偵が呼び出される『空想探偵と密室メイカー』、葬儀が規制されるようになった近未来を舞台にした『葬式組曲』、新興宗教をユニークな角度から描いた『もう教祖しかない!』(現『リーマン、教祖に挑む』)、お役所ミステリー『謎解き広報課』、ファンタジック・ミステリー『ハルカな花』(現『彼女が花を咲かすとき』)、レンタル家族業を題材にした『探偵ファミリーズ』と、堅実なペースで作品を発表。特異な設定や職業を使いながら、優れたミステリーを書き続けていた。ユーモラスな作品が多く、楽しく読むことができるのも、作者の持ち味であろう。

 だが、二〇一七年九月に文藝春秋から書き下ろしで刊行された長篇『希望が死んだ夜に』は、きわめてシリアスな内容である。しかもミステリーのサプライズにより、現代の日本が抱える問題を、真摯に掘り下げている。だからなのだ。天祢涼は面白い作家から、凄い作家になったのだと、本書によって確信してしまったのである。

希望が死んだ夜に天祢涼

定価:本体750円+税発売日:2019年10月09日


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