2016.08.26 書評

信念の覚悟で人生を切り拓くヒロインの新たな“色”

文: 細谷 正充 (書評家)

『白露の恋 更紗屋おりん雛形帖』 (篠綾子 著)

『白露の恋 更紗屋おりん雛形帖』 (篠綾子 著)

 書店が好きだ。買いたい新刊をチェックし、リストを持って書店に入るときのワクワク感は、何ものにも代えがたい。平台や棚を見ていて、こちらの知らなかった面白そうな本に出合ったときも、嬉しくてたまらない。購入する本を、片っ端から籠に入れているときは、実に幸せなのだ。

 しかも本をレジに持っていくと、ちょっとした余禄まである。栞(しおり)やポストカード、小冊子に出版カタログなど、無料で貰える拡販材が並べてあるのだ。もちろん興味を惹かれたものは、すべて貰うようにしている。なかでもチェックを欠かさないのが、拡販用の小冊子だ。出版社が、どの作家、どの作品に力を入れているか分かるからである。

 たとえば、篠綾子の「更紗屋おりん雛形帖」シリーズの第四弾『山吹の炎』が刊行されたときに作られた、四つ折りの小冊子「更紗屋おりん雛形帖のお江戸な世界」を見よ。既刊案内に、シリーズのストーリーと登場人物相関図が、コンパクトにまとめられているのだ。さらに、葉室麟の「美しさだけでなく、ひとの生き方を探し求めている時代小説」、岩井三四二の「ひとつの時代をまるごと描く、スケールの大きな全体小説」という、文庫解説の言葉が引用されているのである。こうした小冊子から、文春文庫編集部が、本シリーズに並々ならぬ期待をかけていることが窺えるのだ。でも、それは当然のことだろう。読めば分かる。文庫書き下ろし時代小説界に、新鮮な風を吹き込む、実に魅力的なシリーズなのだから。その第五弾となる本書の内容に触れる前に、まずは作者の経歴を紹介しておこう。

 篠綾子は、一九七一年、埼玉県に生まれる。東京学芸大学卒。小学校時代から作家を志し、私立高校で国語教師をしながら、歴史小説の執筆を始める。二〇〇一年五月、第四回健友館文学賞を受賞した『春の夜の夢のごとく 新平家公達草紙』を刊行して、作家デビューを果たす。二〇〇五年には、短篇「虚空の花」で、第十二回九州さが大衆文学賞に佳作入選した。残念なことに作品は活字にならなかったが、ネットにアップされている作者の受賞コメントで、

 

「受賞作は京都で見た歌碑をきっかけに構想。人物像の設定に苦心したが、創作した歌を含め、会話の中で和歌を自然に生かすことができたと思う」

 

 と、述べている。篠作品を俯瞰すれば、作者が“和歌”に対して強いこだわりを持っていることが理解できるが、そうした創作姿勢は、最初から現れていたということだろう。なお、この年には、歴史小説『義経と郷姫─悲恋柚香菊 河越御前物語』『山内一豊と千代』も上梓。作者の存在が斯界に印象づけられた。

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白露の恋 更紗屋おりん雛形帖
篠綾子・著

定価:本体750円+税 発売日:2016年08月04日

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