特集

“要注意保護者”のシングルマザーを変えた、夜間保育園理事長のひと言

文: 三宅 玲子

認可夜間保育園はなぜ増えないのか。型破りの保育を実践する夜間保育園に密着取材。“夜の親子”を支える人々の思いを描き出した『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』の序章を公開。


『真夜中の陽だまり』(三宅玲子 著)

序章

事件は起きた

 博多の夜間保育園へ通うようになったのは、ほんの偶然からだった。

 九州一の歓楽街、中洲のすぐそばにあるその保育園を訪ねたとき、取材の目的は、保育園にしては珍しい現代建築の建物にあった。ところが、初夏の晴れ渡った朝、その保育園でおよそ90分を過ごしていとまを告げる頃には、保育園の歴史にすっかり心を奪われていた。東京の歌舞伎町の一角にベビーホテルの看板を見かけたことはあったが、夜働く親のために夜間保育園という認可保育園の制度が存在することを、ここで私は初めて知った。

 その後、約2年にわたり、私は博多の街で、保護者、保育士、卒園児の親など、夜間保育園の歴史に連なった人たちへの取材を繰り返すことになる。そこには、昼間の保育園では知ることのなかった親と保育園の深い関わりがあった。と同時に、なぜ夜の歓楽街の多くには夜間保育園ではなくベビーホテルがあるのか、夜の親と子どもたちを支える仕組みはなぜ脆弱なままなのか、疑問を持つようにもなっていった。

 そんなとき、事件が起きた。

 東京都目黒区で5歳の女の子が両親に虐待され死亡した。2018(平成30)年3月だった。

 女の子の母親は20歳になるかならないかで女の子を産んでいた。数年で離婚し、その後、再婚した男性が女の子を死に追いやることになったのだが、母親もまた男性から虐待を受けていた。

 事件から8ヶ月後の11月、私はネットメディアで公開する記事のために、この事件に関する厚生労働省の虐待検証委員会委員長、山縣文治氏にインタビューを行った。山縣氏は関西大学人間健康学部教授で、児童家庭福祉学を専門とする。児童養護施設や子育て支援のフィールドワーク経験が豊富で、2013(平成25)年から国の児童虐待に関する専門委員会の委員長をつとめる。山縣氏への取材の目的は、児童虐待を未然に防ぐための防波堤を社会はどのようにつくることができるのかを聞くことだった。

真夜中の陽だまり三宅玲子

定価:本体1,500円+税発売日:2019年09月09日


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