しかし私は、階級社会より、明暗社会というほうが、ふさわしいのではないかと思っている。極端な金持ちでもない限り、立っている場所に、それほど違いはない。ただ、個々人のいる場所の、明暗が違うだけだ。暗い場所で絶望している人の隣に、明るい場所で楽しく生きている人がいる。そのような状況が当たり前になっているのだ。また、立場や肩書に関係なく対等に会話できるネットのSNSなどが、階級のフラット化に繋がっている。しかしだからこそ、個々人の明暗が露骨に表れてしまうのだ。
そして学校も、階級をフラット化する場である。ネガとのぞみが、同じクラスにいるではないか。ちなみに二人の名前の由来は、ネガが“希う”、のぞみが“希望”。同じような願いと望みを託されながら、ネガとポジのように相反する立場にいる。まさに、明暗を象徴しているのである。
ところが中盤のサプライズにより、明暗の構図が崩れる。ここが凄い。真壁たちのパートで明らかになる、ネガの担任教師が彼女に与えた言葉の、硬直化した認識に呆れたが、そんな私たち自身の思考も硬直化していたことを悟らざるを得ない。このサプライズによって、本書のテーマである“子供の貧困問題”が重層的に表現されているのだ。
いや、それだけではない。母親がフリーライターとして成功したことで、貧困家庭から抜け出せた長谷部友輔。ネガが凜子姉ちゃんと慕っていた青谷凜子の姿。やはり貧しい家庭で育ち、努力によって神奈川県警の捜査一課の刑事にまでなった真壁巧。さまざまな角度から、貧困を取り巻く状況を描くことで、この問題を、より深く掘り下げているのである。
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