「ある日、窓を開けると人間大のカマキリの顔がそこにある」という、強烈なシチュエーションを。
思いついてしまったからには、
「とにかく巨大カマキリと人間が死闘をくりひろげる話を書きたい」
この思いにとりつかれてしまったという荻原さん。
「たまたまカマキリが家の庭にやってきたので、飼育箱で飼い始めました。おかげでカマキリの生態がずいぶんわかり、執筆の助けになりました。
ふだん、カマキリはのろいんです。あんまり動かず、ぼーっとしている。餌として庭で捕まえたバッタを箱に入れてみたのですが、特に何の反応も示さない。最初は『こいつ、餌がやってきたことをわかってないのかな』と思いました。ところが、バッタがぴょ、ぴょ、とカマキリに近づいた瞬間、彼女は音も立てずに、ひょいと両手の鎌を一閃。見事にバッタを仕留めてみせたのです」
カマキリは、じっと気配を消していたのだ。
「彼女はふたつの鎌を上手に操って、バッタの首根っこと胴体の中央部を瞬時に挟み、動けなくしました。そしておもむろにムシャムシャかぶりつく。見事なものです。相手の急所を知っているんです」
狩人としての腕に加えて、カマキリの“人間くささ”も、荻原さんを惹きつけた。
「動きが人間ぽいんですよね。2本の鎌を持ち上げたまま、後ろの4本肢でひょこひょこ歩く姿は、腰を落としてゆっくり歩く人間のよう。両手に鎌を持ったアブナイ殺人鬼のように、ひっそりたたずむ姿は不気味ですよ。また、目も怖い。カマキリの目は白目(?)だけのように見えますが、よく観察すると中にちいさな黒い瞳(偽瞳孔)があります。そのちいさな黒い点がポインターのようにこちらをちゃんと捕捉しているんです。目は動かずとも、こちらの動きに反応して黒い点は動いている。しかもその黒い点は、目の後ろ側にまでまわり込むんです。
そんな怖さの半面、指でつついて驚かすと、ドタバタあわてる姿はほほえましい。まるでずっこけるような仕草で、人間くさいんです」
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