寄生虫、その驚くべき生態
物語中、カマキリ以上に強烈なインパクトを放つのが、寄生虫の存在だ。
「もともと寄生虫にも興味があり、なかでもカマキリに寄生してその脳をコントロールし、自死に追い込んでしまうハリガネムシの生態には関心をもっていました。今回、カマキリを主役にしようと思った時、このふたつの生物が自然と結びついていった感じです」
志手島に上陸し、巨大カマキリを探し始めたライターの藤間は、同時期に不審な死をとげた島の住民の肛門から、とんでもなく長い寄生虫がにょろにょろ出てきたとの目撃情報を得る。
巨大カマキリと寄生虫、そして相次ぐ住民の死――。島でいったい何が起きているのか? 物語は怒濤の展開を見せ、グロテスクかつ仰天シーンの連続に、ページをめくる手もふるえるほどだ。
「昆虫はわりと好きですけど、寄生虫が好きなわけはありません(笑)。それでもハリガネムシの研究セミナーに出てみたり、一生行くまいと思っていた目黒の寄生虫博物館に勉強しに行ったりするうちに、どんどん知識も増え、興味がわいてきました。
いちばん驚いたのはロイコクロリディウム。カタツムリに寄生し、触覚に入り込んで触覚をイモムシそっくりに見せかけた上、さらに脳を操ってマインドコントロールし、本来、日光嫌いのカタツムリを日なたに移動させます。それは宿主であるカタツムリを鳥に食べさせるためなんです。鳥を騙してカタツムリを飲み込ませたら、ロイコクリディウムは鳥の消化器内で成虫へと育つというわけです。
グロテスクなのはギニア虫ですかね。人間の足に入り込んで、激痛とかゆみを生じさせ、たまらず人間が足を水にひたすと、ギニア虫のメスは足の皮膚を食い破って幼虫を水の中に吐き出すんです。想像するだけで、足がかゆくなるでしょ?
こうしたことを知ると、ただキモチワルイだけでなく、寄生虫って実に不思議な、驚くべき存在だなと思えてきませんか」
人間と巨大カマキリ、そして水中にうごめく無数の寄生虫――。種を超えた死闘を最後に制するのは、誰か。
「カマキリが巨大化するメカニズムや、ハリガネムシが人に寄生した時、具体的にどうなるかの理屈を考えるのが大変で、連載中ずっと悩み続けていました。
書き終えた今は、とにかく楽しく読んでもらいたいし、読後、生き物って不思議な存在だなあと思ってもらえたら、こんなうれしいことはありません」
おぎわらひろし 1956年、埼玉県生まれ。成城大学卒。広告制作会社勤務を経てフリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞、14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞、16年『海の見える理髪店』で直木三十五賞を受賞。
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