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縄文論

縄文論

安藤礼二

文學界11月号

出典 : #文學界

「文學界 11月号」(文藝春秋 編)

 資本主義は植民地の確保と産業の技術革新を両輪として発展していた。原材料と人件費を安く抑えられる植民地を確保し、廉価でありながら品質を落とさない商品をつくり、本国で売り捌く。そこであがった利益を今度は国内の技術革新にまわし、大量生産を可能にする。「空間的な差異」(植民地における生産)を「時間的な差異」(本国における技術革新)に変換する。余剰として生み落とされた資本は、絶えず「空間的な差異」を「時間的な差異」に変換し続け、また同様に「時間的な差異」を「空間的な差異」に変換し続けることで、果てしなく増大してゆく。しかし、その運動は、一度始めてしまったら終えることはできない。成長を止めることはライバルに敗北することを意味する。決してやめることのできないレースが始められてしまった(ここまでが、マルクスが生前に刊行することができた『資本論』第一巻の主旨である)。

 社会の生産力をあげることを目標とするという点で、資本主義の揚棄を掲げた社会主義も全体主義も、資本主義の内部から生まれ、それを内部から食い破ろうとしたものだった。資本主義を成り立たせている「生産と蓄積」の論理をより純化していくものであった。社会主義は、はじめて国家と国家が争った世界大戦から生まれ、全体主義は、次なる世界大戦を準備しようとしていた。資本主義も社会主義も全体主義も、近代的な国家を内側から乗り越えて拡大する、超近代的な帝国を目指していた。世界に覇を唱える帝国を目指す国家同士の闘いは必然的に全面化し、同時にその帰結としての破滅もまた全面化することになる――その危機は現在でもまったく薄らいではいない。

文學界 11月号

2019年11月号 / 10月7日発売
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