特集

「舵の曲ったボート」の歴史意識――村上春樹、小説家40年を貫くもの<特集 村上春樹・作家生活40年>

文: 小山鉄郎

文學界12月号

「文學界 12月号」(文藝春秋 編)

 今年、デビュー四十周年を迎えた村上春樹氏に、ロング・インタビューする機会がありました。文芸評論家の湯川豊氏と私が聞き手となって、今春、私の勤務先の共同通信社から配信したのですが、その拡大版が「文學界」の本年九月号に「暗闇の中のランタンのように」として掲載され、好評だったようです。

 私は文学担当記者となって以来、村上氏を繰り返し取材してきているのですが(数えると、十回ほどのようです)、これを機会に、村上氏の文学世界の特徴と時代や歴史との関係について考えてみたいと思います。村上氏はどんな質問にも答える作家ですが、作品の意図については直接的には語らぬ人です。以下記すことは取材を通して、私が受け取り、考えたものです。批評的な内容を含む文ですので、インタビューアとしては、村上氏にまことに失礼ではありますが、以下、敬称抜きで記してみたいと思います。

 ☆

「暗闇の中のランタンのように」が掲載された今夏、米国の俳優、ピーター・フォンダが七十九歳で亡くなりました。ピーター・フォンダと言えば、まず映画『イージー・ライダー』ですが、その「『イージー・ライダー』なんて三回も観た」と村上春樹は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(一九八五年)で書いていました。

 村上春樹は早稲田大学の卒論で、この映画のことを論じたと言われていますが、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では「私自身の自我にふさわしい有益な人生を手に入れることができるかもしれないと考えたことだってあった」として、その例に『イージー・ライダー』を三回観たことを記しているのです。

文學界 12月号

2019年12月号 / 11月7日発売
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