- 2019.11.27
- インタビュー・対談
激動の時代を乗り越えろ! 「国家再建」「経済再生」「地方復興」を成し遂げた奇跡の主従の物語。
「オール讀物」編集部
『わが殿』(畠中 恵・著)
ジャンル :
#歴史・時代小説
借金を返す家臣vs. 金を遣う殿の関係性
――実際の歴史をベースに新聞連載をはじめるにあたっては、ずいぶん沢山の資料を読まれたのでは?
畠中 以前に江戸の留守居役を主人公にした『ちょちょら』(新潮文庫)を書いていたので、その時も資料から実在のエピソードを拾いましたし、たぶん出来るだろうと思ったんです……が、その苦労をすっかり忘れていただけでした(笑)。武家と町人というだけで、お金のやりとりひとつでも全然ルールが違って、たとえば奉行所に付け届けを送ったりするのは、賄賂でも何でもなく、ちゃんと領収書も出していますし、当時の法律的にはOKなんですよ。資料を読めば読むほど知らなかったことが出てきて、すごく後悔したんです。
今回はさらに自分がお話を作るわけではなく、史実を基に創作するということがいかに違うのかも身に沁みました。ただ有り難かったのは、土井利忠公は名君として地元では非常に有名な方で、きっちりとした年表が整っていました。それを仕事部屋の後ろ一面に貼り、年代ごとに追って書いておこうと決めたので、『わが殿』の各章のタイトルは利忠公と七郎右衛門の年齢になったわけです。
――江戸の上屋敷で、藩主の利忠と、もう一人の主人公の内山七郎右衛門は初めて出会いますが、15歳と19歳という若さでした。長年に渡る主従関係がそこからはじまったわけですが……。
畠中 利忠公は名君として大野の神社にも祀られているような方で、片や七郎右衛門も殿に見出され、やがて莫大な借金返済に活躍をした人物です。ふたりが力を合わせて藩を改革していく感動のストーリーになるかと思っていたら、七郎右衛門がちょっとお金を返しはじめると、利忠公はすぐお金を遣ってしまう。「え? ここでもう」というくらい早くから、七郎右衛門の弟の隆佐までが殿に加勢し、稼いだお金を藩校開設や軍備の増強、医師を招いての種痘など、どんどん別の事業に注ぎ込んじゃうんです。
そんな無茶なお殿様ですが非常に才覚があって、時代がもし幕末でなく、戦国だったら面白いことをしたはずです。そんな印象から「信長」というイメージが浮かんできました。最初に思い描いたくそ真面目なペアではなかったですが、ふたりの関係性はずっとこの小説の読みどころだったと思います。
弟の隆佐とはもっと仲が悪くて丁々発止のやりとりをしてくれれば、書きやすかったんですけれど、資料にもまったくそれは書かれていない(笑)。まあ、小さな藩でいくら優秀とはいえ、長男、次男に続き末っ子の介輔まで三人も仕官が認められたとなれば、相当、周りからのやっかみもあったはずで、その分、身内の結束は固くなったんじゃないかと納得はしています。