- 2019.11.27
- インタビュー・対談
激動の時代を乗り越えろ! 「国家再建」「経済再生」「地方復興」を成し遂げた奇跡の主従の物語。
「オール讀物」編集部
『わが殿』(畠中 恵・著)
ジャンル :
#歴史・時代小説
組織の中で一生ついていく誰かを見つけられるか?
――現代の言葉でいえば、「国家再建」「経済再生」「地方復興」といった、さまざまなキーワードが『わが殿』には登場します。読者も何か今の時代を生き抜くヒントをもらえるのではないでしょうか?
畠中 七郎右衛門の時代は、藩という仕組みの中では生きなければならず、殿さまの言うことは絶対で逃げだすところがなかった、ともいえなくもないんですが、ただ七郎右衛門のように行動できれば、どこの会社でもどこの組織でも生きのびていけるんじゃないか……会社というのは中の人のことは、実際に入るまで全然分からないものだし、そこで出会った人は必ずしも好きなひとばかりではないでしょう。でも、七郎右衛門のように上司の惚れどころを見つけて、一生ついていける人を見つけることができたら、それだけで幸せとはいいませんが、自分もちゃんと出世していけるんだったら羨ましいですよね。
七郎右衛門は弟の隆左は、若いうちから天才ぶりを周囲に認められ、末弟の介輔にいたっては180センチもある猛者としてやはり若い頃から評価されました。それに対してお金を扱うことに長けていた、七郎右衛門は決して周囲に最初から重んじられていた立場でなかったのにもかかわらず、最終的には家老にまでなって、福井藩の松平春嶽公からも一目置かれたそうです。対外的な評価としては小さな藩ですし、あの時期は春嶽公をはじめ、全国で有名な方がたくさん出ているので、大野藩ことはこれまであまり知られていませんでしたけど、ただお金を生み出すシステムを作ったことはすごかった。特に廃藩置県となって、武士の身分が保証されなくなった明治になってからも、七郎右衛門は最後まで土井家を支え続けたそうです。
これまで日本は明治になってから、西欧を見習った富国強兵制度で一気に発展したというようなイメージがあったんですが、その下地として大野のように面白い藩は昔から日本各地にあったんじゃないか。参勤交代は幕府による藩の弱体化を狙ったものだと言われてきましたけど、各藩が江戸に集められたおかげで情報の交流や技術の交換もできた。明治以降の時代のうねりというのは、江戸時代のことが好きでずっと読んできた私が考えているより、ずっと早くはじまっていたことにも、『わが殿』を書いていて気がつきました。そういう視点でいずれまた歴史ものを書いてみたい気がしています。
はたけなかめぐみ 高知生まれ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学卒業。2001年『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。16年「しゃばけ」シリーズで吉川英治文庫賞。著書多数。