最後に苦味が残る藤沢周平作品
祖母が時代劇ファンだったので、子どもの頃はよく一緒に時代劇を観ていました。『暴れん坊将軍』『水戸黄門』『銭形平次』『遠山の金さん』など、どれも大好きですが、時代劇というのはスカッとするような、勧善懲悪の話が多いですよね。でも、この作品で登が手助けする相手は、獄中の囚人です。牢から出られない囚人のために登が行動することによって、囚人や、その家族の心を少し軽くしてあげることはできても、それによって彼らの罪が軽くなるわけではありません。最終的には島流しになったり、処刑されたりして、物語が完全にハッピーエンドで終るというわけにはいかない。だから毎回、登の中に「これでよかったのだろうか」という煮え切らないような、切ない思いが残り、「自分にはもっと何かできたんじゃないか」と悩んでしまう。最後に苦味が残り、その苦味がまた堪らなく癖になる感じが、この作品の独特のおもしろさだと思います。
登は、町医者をしている叔父の玄庵(古谷一行)を頼って江戸に出てくるのですが、居候先のシーンでは、ホームドラマのような雰囲気があるのも楽しかったですね。叔父は怠け者で頼りなく、叔母(宮崎美子)には家の雑用を押し付けられ、娘のおちえ(平祐奈)には呼び捨てにされる。外でこんなに活躍している登が、家の中ではこき使われ、情けない扱いを受けているというギャップが可笑しくて、ここはユーモラスに演じました。古谷一行さんがどうしようもない叔父をチャーミングに演じてくださいましたし、宮崎美子さんも、もともとが温かい雰囲気の方なので、口うるさい叔母を演じてもどこかほっとさせてくれる。そのお陰で、個性的な親戚に振り回される登を、楽しみながら演じることができました。
それに、頼られると断れない登の性分は、外でも家の中でも共通していますよね(笑)。そんな純粋なところも、登の良さなのかもしれません。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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