書評

あなたの上司に読ませて欲しい! 人望も展望もある「理想の上司」とは?

文: 高成田 享 (ジャーナリスト)

『世襲人事』(高杉 良)

『世襲人事』(高杉 良)

「厳太郎は全力疾走しなければ気が済まないほうや。どんなものごとに対しても、おまえは全力で取り組もうとするやろう。大日生命に入社したら、過年度入社のハンディを取り戻そうとして、それこそ寝食を忘れて仕事をするに決まってる」

 転職を迷っている厳太郎は稲井にこう答える。

「苦労することは厭わん。なんでもない。いや、だからこそやり甲斐があるんやないか。しかし大日生命に入るとしたら、社長になるつもりでやらなあかん。それがかなわんのや」

 広岡家は大日生命の創業家であり、跡を継がせようとする父の思いがアナクロニズムだと厳太郎は言いながらも、それを「宿命」と受け入れるしかなかった。スピード出世とやっかむ周囲からのプレッシャーに対して、厳太郎は周囲から愛される「理想の上司」となることではねのけようとしたのだろう。

 入社後の厳太郎が支社で働きたいと、従兄で先に大日生命に入っていた広岡慶一郎に相談したときに、慶一郎は厳太郎の本気度を確かめようと、こう答える。

「絹のハンカチは絹のハンカチらしくせなあかん。帝王学を勉強したらええやないか」

 それに対して厳太郎は言い返した。

「僕は絹のハンカチやありません。帝王学なんて勉強するつもりもないですよ」

 絹のハンカチではぬぐえない現場の汗は、雑巾で拭くしかない。厳太郎の決意があらわれた会話だった。

世襲人事高杉 良

定価:本体750円+税発売日:2020年01月04日


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