書評

ゴーン前会長逮捕の衝撃! 歴史はなぜ繰り返すのか

文: 加藤正文 (神戸新聞播磨報道センター長兼論説委員)

『落日の轍(わだち) 小説日産自動車』(高杉 良 著)

『落日の轍 小説日産自動車』(高杉 良 著)

「カリスマ経営者」として二〇年にわたって賛辞を浴びてきた日産自動車前会長カルロス・ゴーンの衝撃的な逮捕、起訴は、二〇〇一年以降の「聖域なき構造改革」で外資との提携を推し進め、「痛みを伴う」というスローガンで守るべき雇用を削減してきた近年の経済運営の限界を示すような事件だった。

 社長西川廣人(さいかわひろと)は「一人に権限が集中し過ぎた。ゴーン統治の負の側面と言わざるを得ない」と述べた。対して被告となったゴーンは勾留中の東京拘置所で一部メディアとの面談に際し、「これは策略、反逆だ」と言い切った。

 日産で何が起きていたのか。仏ルノーから送り込まれた敏腕経営者は組織に大なたを振るい、「リバイバルプラン」などで活性化策を練り、瀕死の状態から復活させた。しかし時をへて一七年、出荷前の新車で国の規定に違反する無資格検査が常態化していたことが発覚し、リストラの一方で品質を担保する現場力の低下が露呈した。

 そして今回のゴーン事件では「私物化」と言わざるを得ない実情が次々と表面化した。破格の報酬の虚偽記載、海外での自宅の無償提供、家族旅行の費用負担、姉へのコンサルタント料の支払い……。救世主はいつから、なぜ、会社を食い物にするようになったのか。非情にも退職を強いられた二万人もの従業員はどんな思いでゴーンの姿を見ているだろうか。

落日の轍高杉 良

定価:本体700円+税発売日:2019年03月08日


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