原作が短篇ゆえに膨らませられる場所、空白の部分がいっぱいあるということは、私にとってすごく嬉しいことなんです。一冊でもう映画一本を観たような気分になるというような大長編には意外とワクワクしないもので、むしろ短篇には描かれていない場所があるからこそ、それを二時間の映画にした時にどう見せていくのだろうか……脚本が仕上がってくるまでも非常に楽しみな時間でした。
また現代ものの場合、どうしてもよく出てくるのが「リアル」という言葉です。でも時代劇の場合、そもそもリアルが何なのかよく分からない。何百年も前のことを実際に見た人は、もう誰もいないわけですから(笑)。だからどんな状況に置かれても、そこを飛び越えていける力があるし、よりドラマチックに描くこともできる。夢があると思いますよね。
おくみという役は、母も祖父も亡くなって天涯孤独の身の上で、しかも最愛の恋人はやくざの一味に追われている。苦境に立たされながら、それでも気丈に日々を生きている女性です。ただその辛さを隠すというか、働いている居酒屋でもあえて見せることがなく、それが顔も知らなかった父の宇之吉が現れた状況で一気に感情が噴き出す。今まで堰き止めてきたものが決壊してしまうというような役作りがいいのではないかと思っていました。
仲代さんとの最初の撮影場面は、居酒屋のセットでしたが、ともかく時代劇の扮装をするとさらに迫力が増して、往年の名作から抜け出たような佇まいなんですよ。無宿渡世姿のボロボロの衣装を身に着けていらっしゃるから、それが役柄というか、宇之吉の壮絶な人生も背負っているんだと圧倒されました。身長もお高いですしね(笑)。もっとも、仲代さんはどんな演技でも受け止めて返してくださる方で、「好きに演っていいよ」という感じ。父と娘の距離もセリフを通じて縮んでいったと思います。
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