序章
時を追う毎に一人、また一人と、集まって来る。
壁の無い茅舎のような粗末な御堂には、弟子や教えを聞きに来た近郷の僧で溢れ返り、その周囲を数十の民たちが取り囲んでいる。
一遍はすくと立ち上がった。他の僧たちも慌てて立ちあがろうとするのを手で制す。
「まだよ」
弟子の一人が物言いたげな目をしている。
「暑いな」
一遍は手で大袈裟に顔を扇いでみせた。
狭い御堂に三十人以上の僧が詰まっており、その中心に一遍は座していた。折角、心地よい風が吹き抜けているのに、ここは人の壁に遮られて蒸し暑くて敵わない。
集まってきた民の顔をよくよく見たいと思ったのだ。己がいると聞いて駆け付けた者もいようが、これは何の集まりなのかと首を捻っている者も散見される。何か面白そうなことをやっていると興味半分で来た者も多分に含まれているようだ。
弘安五年(一二八二年)、仲春の頃である。桜吹雪でも見られると思ってやって来たのかもしれない。だがこの片瀬の館に、付随して建つ御堂の前には、小汚い阿弥衣に身を固めた僧が群れているだけ。がっかりした者もいるのではないだろうか。
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