一遍が人波を縫って歩みだしたので、弟子たちは待っていたとばかりに頷く。
「まだじゃ」
「では何処へ……?」
「糞をして来る」
「は……」
ぽかんとする弟子たちに向け、一遍は口に手を添えて囁くように言った。
「何度も言わすな。昨日の菜が生茹でじゃったようで腹が痛い」
「お師匠、このような時に!」
声を上げたのは新参の弟子である。付いて行く者を誤ったと思ったのかもしれない。顔を赤らめており語調も強い。それをいなすように一遍は柔らかに答えた。
「このような時も何も、糞は時を選んではくれぬ。人は生きる限り物を食らい、やがて捻り出すものよ」
一遍は己の尻をぽんと叩いて片笑んだ。今でこそ多くの者が慕ってくれ、師匠と呼ばれ、もっともらしくしてやらねばと思っている。しかし生まれたままの己は奔放で闊達な性質である。子どもの頃は故郷の伊予で、
――がねさく。
などと呼ばれていた。つまりは悪餓鬼だとか、暴れん坊という意である。己が多分にこのような気質だと古参の弟子たちは重々承知しており、苦笑しつつ、どうぞといったように手を宙に滑らせる。新参の弟子だけが目を丸くしているのが可笑しかった。
一遍は御堂から素足のまま降り立つと、衆もいよいよ始まるのかと感嘆の声を上げる。
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