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今村翔吾「私が追いかけて来たテーマの、核になる物語かもしれない」

今村翔吾「私が追いかけて来たテーマの、核になる物語かもしれない」

別冊文藝春秋

新連載『海を破る者』に寄せて

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #歴史・時代小説

「別冊文藝春秋 電子版30号」(文藝春秋 編)

 さてここまで話してきて、ふと疑問を持った方は多いのではないか。モンゴル帝国はなぜそこまで領土を拡張しようとしたのかということである。現在のポーランド辺りから、韓国まで、馬鹿々々しいしいほど広大な領地といえよう。1920年代の大英帝国ならば電報による連絡も取れたが、モンゴル帝国は13世紀の話である。とてもではないが統治出来るはずがない。それはモンゴル帝国も理解していたようで、国を細分化させて緩やかな連合体になっていくのだが、統治にはかなり苦労の跡が見られる。それでも彼らはとり憑かれたように、領土を広げることを止めようとしなかった。目標は世界征服だったのか。だがその世界がいかなる形をしているのかすら、はきとしていない時代である。この疑問に直面した時、私は本作「海を破る者」を書くことに決めたのだ。

 主人公は源頼朝から、「源、北条に次ぐ」と称えられた伊予の武士河野家の通有という男である。元寇当時の河野家は一族の内紛により、見る影もないほどに没落していた。この通有は元寇に際してある行動を取って、後の世に名を残すことになる。それを鎌倉武士や世の人たちは勇敢だと賛美したのだが、私はとても奇異な行動に思えて仕方が無かった。

 河野家と決めたのには他にも訳がある。実は同時代にもう一人、通有より遥かに著名な人物を輩出している。踊念仏を広めた一遍上人である。道有とは祖父が兄弟同士という間柄で、先に挙げた一族相克の争いに嫌気がさして、伊予から旅立ったとされている。そして一遍は全国を遊行する中で、たびたび伊予に戻って来ていることも判っている。この時代に爆発的に踊念仏が広がった訳は、元寇による世情不安とも無関係ではないだろう。


「海を破る者」の立ち読みはこちら

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版30号(2020年3月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年02月20日

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