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第166回直木賞 今村翔吾『塞王の楯』<受賞のことば>

第166回直木賞 今村翔吾『塞王の楯』<受賞のことば>

今村 翔吾

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#歴史・時代小説

人気作家のW受賞が大きな話題を集めた第166回直木賞。きたる7月20日(水)に行われる第167回直木選考会を前に「オール讀物」誌上に掲載された、今村翔吾さんの<受賞のことば>を特別公開しました。


『塞王の楯』(今村 翔吾/集英社)

 未だに「今村先生」と呼ぶ人より、「翔吾くん」と呼ぶ人のほうが多い。

 七年前の二月十四日、滋賀県草津市のとあるホールにいた。ダンス講師だった私が、職を辞して小説家を目指すということで、六つの教室の教え子、保護者たち合同で、送り出す会を開いてくれたのだ。そこで私は「夢は叶うということを残りの人生で証明する。それを最後に教えることとしたい」と、宣言した。拍手で見送ってくれたが、保護者たちは流石に愛想笑いだっただろう。これは十分理解出来るし、無理もないことである。

 ただ子どもたちは、真っすぐな眼で応援してくれた。のちに聞いても「翔吾くんならやると思っている」と、平然とした調子で言う。胸がちくりと痛んだ。自分自身が信じ切れていなかった。つまり嘘を吐いたことになる。この嘘を実(まこと)にする。それが私の執筆の原動力の一つであったことは間違いない。きっと私は今も「翔吾くん」のままなのだろう。

 そんな私だからこそ、奔走の途中、応援してくれる多くの編集者、そして読者の皆様に出逢うことも出来たと思う。心より感謝を申し上げたい。


いまむら・しょうご
1984京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。18年「童神」(刊行時『童の神』に改題)で角川春樹小説賞。20年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞、『じんかん』で山田風太郎賞など著書・受賞多数。

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