- 2020.03.30
- インタビュー・対談
小さな案内人が誘う「異世界」へ――作者による“おかしな”解説の試み
吉田 篤弘
『ガリヴァーの帽子』(吉田 篤弘)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
今回、文庫化にあたって、ひさしぶりに読みなおし、とりわけ不可解なものが抽出されていると思われる「ガリヴァーの帽子」、「御両人、鰻川下り」、「孔雀パイ」の三編には、いずれも、異世界とこちら側をつなぐ案内人がいることに気がつきました。
「ガリヴァーの帽子」におけるテントン。「御両人、鰻川下り」の番頭。「孔雀パイ」における冠者。この三名は、いずれも小さな存在であり、テントンのような体つきの小ささに限らず、番頭はときに黒子と化して舞台から姿を消し、冠者にいたっては、絵画の中から出てきたばかりという事情も手伝って、少年であると同時に、その体の厚みが紙のように薄っぺらいのです。
こうした希薄なものたちが、何かと何かの隙間からいつのまにかこちらに姿をあらわし、それで、彼らは自らのフィールドに──すなわち異世界に──こちら側の主人公たちを誘うのかというと、そうでもありません。
どちらかというと、彼らはこちら側の世界の──現実の世界と云えばいいのでしょうか──の不可解さを嘆き、自らの不可解さを棚に上げて、「本当に得体が知れなくて、理解しがたいのは君たちの方である」と云わんばかりです。
これは、これら三編に次いでおかしな作品である「かくかく、しかじか」において極まり、全編にわたって、こちら側の不条理と滑稽さが、小さな存在──シャンパンの泡です──によって語られています。
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