ミッドライフ・クライシスという言葉がある。いわゆる「中年の危機」だ。
学校を卒業し社会に出てがむしゃらに働いてきた者のまえに予想外の落とし穴がぽっかりと空いている。会社の倒産やリストラ、自身の健康、反抗する子供、親の介護、はたまた夫婦のすれ違いなど、そのトラブルもさまざまだ。これが中年期だけですむならいいが、その後も人生の曲がり角にはいつも災難が待ちかまえている。老いて死ぬまで逃れることはできない。
なにせ若いころとくらべて体力はすっかり落ちている。無理はきかない。持病も重なってくる。それでいて思考や感覚はいまだ冴えて活発だったころのままだと疑わないから始末が悪い。生まれついての性格は変えようもなく、歳をとって丸くなるどころか気難しく頑固になるばかり。
そんなとき、ふいに危機が現れる。
本書『怒鳴り癖』は、そうした思わぬ苦境をまえに立ちどまり、自分を見つめ直し、再起をはかる六人の男たちを描いた短編集である。それぞれに性格も職業も置かれた状況も異なるのに、まるで我が事のようにはらはらどきどきしながら読み進めてしまう作品ばかりだ。
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